yoshidanobuo’s diaryー高校数学の“思考・判断・表現力”を磨こう!ー

「大学への数学」執筆者・吉田信夫の数学探求ブログ(共通テスト系問題の研究報告)

複素数平面の問題を作ってみましたが,どうでしょう?

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苦手な人が多い複素数平面.
図形と代数の組合せという意味ではベクトルと近いですが,計算の意味をイメージするところがベクトルよりも難しいです.
ベクトルも難しいのに,それよりも難しいなんて・・・という印象なのではないかと思います.


一番の特徴は,「極形式」と「積・商」だろうと思います.
また,偏角が「一般角」であることも要注意.
ベクトルのなす角は,「向きがない」「0~π」ですが,偏角は「向きがある」「すべての実数」です.


また,共役複素数の図形的な意味も,けっこう大事です.

※本文では,zの共役複素数を「z共役」と表すことにします.


さて,本問は,まず,実数であることを示すことになっています.

zが実数であるというのを,4つの観点のそれぞれで言いかえてみると・・・


 ① 虚部=0

 ② z共役=z

 ③ 偏角=πの整数倍

 ④ 3点が同一直線上にある


また,単位円上にあるというのも,4つの観点でとらえられます.


 ① x^2+y^2=1

 ② |z|=1 つまり, z×z共役=1 ∴ z共役=1 / z

 ③ r=1

 ④ 円周上にある(そのまま・・・)


私は②が良いのではないかと考えました.
考えたいもの(Xとおく)の分母にαβγδがあるからです.

 

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解説を見るとすんなりいっているようですが,案外,難しいのではないかと思っています.

この続きとして面白い性質があるので,それはまた機会を改めて.

大人の「収束の定義」 イプシロンεを使うヤツ ②

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【大人の「収束の定義」 イプシロンεを使うヤツ】では,「αに収束」の定義を,「“αに収束”でない」から論理を使って構築しました.

写真の中央部です.

これを日本語だけで書くと,一番下のようになります.
イメージ湧きにくいかも知れません・・・
本当は図を使うなどして視覚化して説明すべきなのですが,お許しを.
また後日,この大学の定義を使って,高校数学では示せない,ある数列の収束を証明しようと思っています.


さて,最初の問い.
こちらの解説を以前はほとんど書きませんでしたが,必要性を感じたので,少し書いておこうと思います.

教科書の定義をしっかり読み取ると・・・


lima_nは「数列{a_n}の極限」を表しています.
つまり,

 ・実数αに収束するときは,α
 ・正の無限大に発散するときは,∞
 ・負の無限大に発散するときは,-∞
 ・それ以外のときは,存在しない

です.
収束するときだけ,極限値という言い方をします(∞は数値ではない!).

 数列がαに収束する
 極限値がαである

は許されても,

 極限値がαに収束する

では意味をなしていません.
だから,【②はNG】となってしまいます.
(日常的には,言ってしまうことはあるのですけど,厳密にはNGなのです)

 ②’:lina_nはαである

なら,何も問題ありません.

 「収束する」の主語は,数列
 「αである」ものは,極限

ということですね.

ちなみに,極限は,収束であっても,あくまで「限りなく近づかれる対象」なので,

 ④’:n=∞のときa_n=α

といった書き方はダメです.
「lima_n」は,「限りなく近づかれる対象」を表しているから,

 ③:lima_n=α

と書いても問題ありません.

細かい話ばっかりしていますが,数学を嫌いにならないでくださいね(笑)

こういう風に,言葉の厳密な使い方を追求するという遊び方もあるのが,「数学」です.
楽しみ方が無限に存在するのですね.

 

2000年前のサイコロとは?

いつもがっつり数学ですが,今回は,ちょっと数学に絡むけれど,ほぼ雑談のような内容です.

唐突ですが,いまから2000年ほど前,古代ローマギリシャの時代には,6面体サイコロが存在していたのをご存じですか?


動物の骨・角だったり,ガラスだったり,青銅だったり,色んな素材で作られています(その写真は記事の最後に).

 

6面体のサイコロとは別に,アストラガルス(複数形はアストラガロイ・トーラス,トーライの関係に似ていますね,ラテン語だからかな?)というものがあります.
これを知っていたら,かなりのマニアさんです.
もとは「動物のくるぶしの骨」という意味の言葉らしいです.

羊などのくるぶしの骨が四角柱のような形をしていて,それを転がして乱数を発生させていたようです.

各根元事象は,どう見ても「同様に確からしい」ではないですね(笑)

 

元々は骨だったのですが,色んな素材で作られるようになります.

サイコロと同じです.

 

最近ゲットしたのが,ガラス製のアストラガルス.

光をかざすと黄色っぽいことが分かります.

その表面が化学変化して,様々な色の層ができています.

そのような変化を「銀化」と呼びます.

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2000年のときを経て,美しく経年変化しています.
当時は,これを転がして子供たちが遊んでいたのでしょうね.

と言いつつ,大人も儀式やギャンブルなどで使っていたようです.
いくつかのアストラガロイを駆使していたのでしょう.
そういえば,この時代のサイコロにも,いかさまの細工がされているものがあるみたいです.

 

ほんとうに唐突ですが・・・

古代ギリシャと言えば,ユークリッド(ローマじゃない).

「原論」を始めるなら,拙著はなかなかオススメですよ.

  👇

 

では,お待ちかねの古代ローマのサイコロ.

 

大きい方が角製のサイコロ.
小さい方は,青銅製のサイコロもどき(全面5の目).

分銅か,ゲームの駒か,そんな感じのものです.

いずれも,古代ローマ独特の同心円模様が可愛いですね.

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大人の「収束の定義」 イプシロンεを使うヤツ

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1つ目の問いの答えは②です.
この書き方は,教科書的には認められないものです.
(習慣的に書いている人も多いでしょうし,入試答案で減点されるとまでは言えないと思います.教科書には書かれることはない,ということは確かです)


さて,「αに収束する」の否定を厳密に述べたものが分かりました.
これを否定したら,「αに収束する」の定義になります.

否定の基本:

①すべてのAで,Pが成り立つ

 (否定)↓↑(否定)

 Pが成り立たないようなAが存在する
 (あるAで,Pが成り立たないものが存在する)

②P→Qが真である

 (否定)↓↑(否定)

 反例(Pを満たすがQを満たさないもの)が存在する

 

●「αに収束する」の否定●

*********

ある正数εで,(*)を満たすものが存在する.
(*)任意の自然数Nに対し,「n>Nかつ|a_n-α|≧ε」となる自然数nが存在する

*********

これを否定しましょう!
それが,「αに収束」の定義です.


●1段階目●

*********

すべての正数εに対し,(*)でない.
(*)任意の自然数Nに対し,「n>Nかつ|a_n-α|≧ε」となる自然数nが存在する

*********


〇「(*)でない」とは?〇

+++++++++

ある自然数Nで,『「n>Nかつ|a_n-α|≧ε」となる自然数nが存在する』でないものが,存在する

+++++++++


〇『  』でないとは?〇

+++++++++

【「n>Nかつ|a_n-α|≧ε」となる自然数n】は,【P⇒Q】の反例.
P,Qとは?

 P:n>N  Q:|a_n-α|<ε

『【P⇒Q】の反例nが存在する』でない,とは

  【P⇒Q】が真である

ということ.

+++++++++


以上から,次のようにまとめることができます.

●2段階目●

*********

すべての正数εに対し,

ある自然数Nで,

【n>N ならば |a_n-α|<ε】が真

であるものが,存在する

*********


頑張って直接説明すると

*********

「限りある近づき」の1つの基準としてεという数を,任意に(どれだけでも小さく)とっても,
ある番号N以降のすべての項a_n (n>N)について,a_nの値とαの誤差がε未満となる.

*********

です.
「どんなεについても」なので,「どこまでも限りなく近づく」という直観を表現するものになっていそうです.


これを大学の数学の授業でパッと与えられ,混乱してしまう人が多いようです.

まぁ,この記事の説明でしっくりくるかどうかと言われたら・・・

なかなか難しいですよね.

高校数学教育者には,ぜひ,知っておいてもらいたい!「多項式」と「多項式関数」の区別 ②

 

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この内容は,「教科書」から読み取った内容で,私の考えというわけではありません.
「ホント?」と思われるところがあると思いますが,私の書いたことを踏まえて教科書をぜひ見返してください!
おそらく分かっていただけると思います(教科書の言いたいことが).

では,コピペから始まります(笑)


「2次式」と「2次関数」.
実は違うのですけど・・・
違いは説明できるでしょうか?


「2次式」は,x^2,x,1 に係数を付けて足した形の「式」

  ax^2+bx+c

のことです.
2次ですから,a≠0 としておくのが良いですね.


「関数」は,x を代入して y を得るルールのこと.
x に代入できる数全体の集合のことを,「定義域」と呼んでいます.


「2次関数」は,得られる y が,x をある「2次式」に代入して得られるということ.

  y=ax^2+bx+c

もちろん,a≠0 です.


この対応「y=ax^2+bx+c」を関数と呼び,「関数 y=f(x)」と書いたりするのです.
ここまでは良いのですが,ヤヤコシイのは,「f(x)」を関数と呼ぶことがあるということ.
これが,「2次式」と「2次関数」の意味の違いを不明瞭にしてしまっているのです.
(残念ながら,分かりやすさを重視したことによる,高校数学の「負の部分」です)


だから,「f(x)=ax^2+bx+c」を関数と呼ぶような気がしてしまうのです.

 「ダメなの?」

と思っていませんか?

ダメなんですよ.
これは,「2次式」に名前を付けているだけ.


※抽象的に対応関係の名称として「f」を関数と呼ぶのが大学では一般的です.
 文字 x に依存せず,抽象的に,「対応関係」に名前を付けている,という意味.


(1) 2次式x^2+3x+4

これは〇です.


(2) 2次関数x^2+3x+4

これは×です.対応を表していませんから.


(3) 2次関数y=x^2+3x+4

これは〇です.


(4) 2次関数f(x)=x^2+3x+4

これは,なんと,×なんです.
対応を表していませんから.
f(x)という2次式を定義している式です.


(5) f(x)=x^2+3x+4として,2次関数y=f(x)

これは〇です.
先に2次式を定義して,それを使って2次関数を表現しています.


(6) f(x)=x^2+3x+4として,2次関数f(x)

これは,〇なんです!
上に書いた通り,これが諸悪の根源です(言い方がキツイ?).


(7) 2次関数y=f(x)=x^2+3x+4

これは,前半が関数,後半が2次式の定義.
1つながりの式に二つの意味を持たせるのは,そもそも,ルール違反です.
後半は恒等式のイコールだ,と見ても,もちろん,ルール違反です.


こうやって見ていると,とっても窮屈な感じがしますが,まっさらな状態の生徒に指導する際には,ぜひ,意識していただけたらな,と思います.
日本の明るい数学教育のために,よろしくお願いします.
(偉そうにスミマセン・・・)

 

ぽっこりカワイイ曲線の漸近線を求めるのは楽ではない ②

唐突ながら,

  “極限”+“不等式”=“ハサミウチ”

ですね!

 

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さて,もともと,「式だけで漸近線を求める」という課題でしたから,

  「図より,漸近線は 3x+3y+1=0 である」

というのは,今回は避けることにします.


ちなみに,k の範囲は

 1)曲線の式に,x+y=kを代入して,xy を k の式で

 2)その際,k≠-1 / 3 が確定

 3)x,y を解にもつ2次方程式が実数解をもつ条件(判別式≧0)

として求めることができますね.


さて,そうして得られた

  -1 / 3 < k ≦ 2

の意味を考えることにしましょう.


k=2のときの直線 x+y=2 は,ひょっこりの頂点(1,1)を通るもので,ちょうど接しているようです.

k=2以外の k の値については,(x,y)が2つずつ求まります.

そして,

  k=-1 / 3 のときの直線にどこまでも近づいていきそうだ

となるのです.

でも,図が分かっている前提で議論しているようになるのと,極限を使って論証したいというのと,2つの意図があるので,この不等式を

  「極限」

に活かしてみようと思います.


  x^3+y^3-xy-1=0

において,

  ①x→+∞のときにy→-∞になるのか?

  ②x→+∞のときに y / x が収束するのか?

が宿題なのでした(どんな x に対しても y が存在することは確認済).


実は,もう宿題は終わったも同然です!


x^3+y^3-xy-1=0において,
  
  -1 / 3 < x+y ≦ 2

が成り立ちます.


① y ≦ 2-x ,x → +∞

だから,y→-∞


② x → +∞の極限を考えるからx>0として良く,

  -1 / 3x < 1+(y / x) ≦ 2 / x

 ∴ -1-1 / 3x < y / x ≦-1+ 2 / x

で,(-1-1 / 3x) → -1,(-1+ 2 / x) → -1なので,

  y / x → -1

 

ということで,宿題2つは解決しましたね!

  -1 / 3 < x+y ≦ 2

から直接的に漸近線が求まったとも思えますが,極限を求めるのに不等式を使ったのが,ちょっと良いですよね.
おかげで,厳密に漸近線を考えることができました!

高校数学教育者には,ぜひ,知っておいてもらいたい!「多項式」と「多項式関数」の区別

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「2次式」と「2次関数」.

実は違うのですけど・・・
違いは説明できるでしょうか?

 

まず,「関数」とは?

  x を代入して y を得るルールのこと

x に代入できる数全体の集合のことを,「定義域」と呼んでいます.
「数列」を関数と見るときは,定義域は「自然数全体の集合」

  N={1,2,3,‥‥‥}

a_n=f( n ) となる関数 f( n ) が一般項で,等差数列は,

  「自然数全体の集合を定義域として1次関数で表される」

というのが正確だろうと思います.


では,「多項式」と「多項式関数」の違い.
とくに2次の場合で話をしてみましょう.

「2次式」は,x^2,x,1 に係数を付けて足した形の「式」

  a x^2+b x+c

のことです.
2次ですから,a ≠ 0 としておくのが良いですね.


「2次関数」は,得られる y が,x をある「2次式」に代入して得られるということ.

  y=a x^2+b x+c

もちろん,a ≠ 0 です.


さて,ここからが本番.

2次式 f(x)=a x^2+b x+c と g(x)=p x^2+q x+r について

①2次式としての一致
 f(x) と g(x) が「2次式として」同じとは

  a=p かつ b=q かつ c=r …①


②2次関数としての一致
 f(x) と g(x) が「2次関数として」同じとは

  すべての x について f(x)=g(x)が成り立つ …②


①が成り立つとき,②は成り立ちます.
これは「明らか」と言って大丈夫です.


しかし,「②が成り立つとき,必ず,①が成り立つのか?」は自明ではありません.
次のような説明が必要になります:


*****************************************************
②は,

  すべての x について f(x)-g(x)=0 が成り立つ …②'

と言い換えられます.ここから①を導きます.

すべての x で成り立つから,x=1,2 でもf(x)-g(x)=0 が成り立ちます.
f(x)-g(x)は,高々2次の多項式ですから,

  f(x)-g(x)=s(x-1)(x-2)

と置くことができます.
さらに,x=0 でもf(x)-g(x)=0 が成り立つので,

  s(-1)(-2)=0 ∴ s=0

です.よって,多項式として

  f(x)-g(x)=0

 ∴ (a-p) x^2+(b-q) x+(c-r)=0 x^2+0 x+0

が成り立ち,

  a-p=0,b-q=0,c-r=0
 ∴ a=p かつ b=q かつ c=r …①

が導かれます.

*****************************************************

「何を代入しても同じだ」という関数としての性質を,係数比較で議論する「多項式」の言葉に直さないといけないのですね.

 

少しややこしくなりましたが,解読いただけたでしょうか?

多項式」と「多項式関数」の違いは,生徒にどれだけ正確に伝えるかは別として,教える側は知っておく方が良いのではないかと思います.


続編として,もう少し違った観点から,2つの違いを考えてみようと思います.
お楽しみに.

ぽっこりカワイイ曲線の漸近線を求めるのは楽ではない

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図を見ると漸近線は存在しそうですが,式だけで考えるとなるとなかなか大変です.

任意にxを固定すると,yは必ず実数として(少なくとも)1つ存在することは分かります.

y=f(x)という形で表された曲線で漸近線を考えることはありますが,F(x,y)=0 表示で漸近線を考えたことは,ありますか?
ちょっとハードですが,チャレンジしてみましょう!

対称性があるから,x→+∞の方だけ考えましょう(x→-∞の方も同じ直線に漸近します).

さて,いきなり躓きます.
そもそも,

  ①x→+∞のときにy→-∞になるのか?

ということを確認するのも,難しいからです.
さらに,

  ②x→+∞のときに y / x が収束するのか?

を確認するのも骨が折れます・・・

今回は,①,②は,「図より」で認めることにしましょう.
(また機会を改めて,説明してみます)

では,①,②は認めた上で,議論を進めていきます.

  x^3+y^3-1-xy=0

の両辺をx^3で割ると

  1+(y / x)^3-1 / x^3-(y / x)×(1 / x)=0

で,x→+∞のときに y / x は収束(極限値をαとおく),1 / x → 0 だから,

  1+(α)^3-0-α×0=0

 ∴ α=-1

です.つまり,漸近線の傾きは-1です.
(「それも図から分かるじゃないか」というツッコミはナシでお願いします)

あとは,

  y=-x+k が漸近線になるのは,どんな k ?

曲線の式で

  x→+∞のとき,(x+y)→k

なので,x+y の極限を考えたらOKです.

  x^3+y^3=1+xy

  (x+y)(x^2-xy+y^2)=1+xy

より

  x+y=1 / (x^2-xy+y^2)+xy / (x^2-xy+y^2)

    =1 / (x^2-xy+y^2)+1 / {(x / y)-1+(y / x)}
                    ☝
             分母と分子をxyで割った

    → 0+1 / {(-1)-1+(-1)}=-1 / 3

よって,漸近線は

  y=-x-1 / 3

 ∴ 3x+3y+1=0


う~ん,予想通り,なかなか大変でした.

宿題になっている極限の部分と別のアプローチの話は,また別の機会に.

高校入試を大人の力で瞬殺(笑)

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さて,何をやったでしょう?
黄金比とその共役のセットなので,イヤでも「アレ」を連想させます.

とりあえず,思わせぶりな文字fを用いて,
 f_n=(x^n-y^n) / (x-y)
により数列{f_n}を定めます.
求めたいのは
 f_4×f_5
です.

知識としては
 f_1=f_2=1,
 f_(n+2)=f_(n+1)+f_n (n=1,2,3,‥‥‥)
だから,
 f_3=2,f_4=3,f_5=5
で,答えは15.


さて,知識ではずるいので,いちおう解説.
 x+y=1,xy=-1
だから,2次方程式
 X^2-X-1=0
は,X=x,yを解に持つ.
 x^2=x+1 ∴ x^(n+2)=x^(n+1)+x^n
同様に
 y^(n+2)=y^(n+1)+y^n
だから,引いて,x-yで割ることで,
 f_(n+2)=f_(n+1)+f_n (n=1,2,3,‥‥‥)
が成り立ちます.

いわゆるフィボナッチ数列ですね.
 1,1,2,3,5,8,13,‥‥‥
自然界に色々現れるとかって,マニアさんが仰る数列ですね.
(私はそういう数学ロマンにはあまり興味がなく・・・)

数の特殊性に目をやるのも,問題と深く向き合うためには大事ですね.
試験の場では,典型問題として計算で処理することが必要になりますが.

 

灘校の生徒さんを担当することが多いです.
その経験を綴った本や,灘中入試算数の問題を多く扱った本をいくつか書いています.
もしご興味あれば,手に取っていただけると嬉しいです.

 

式の呼び名について

今回は「式の呼び名」というニッチなところにフォーカスしてみたいと思います.

 

 ①2x+3は,「1次式」「1次の整式」

 ②y=2x+3は,「1次関数」(直線の方程式)

 ③2x+3=1は,「1次方程式」

 ④2x+3>1は,「1次不等式」

と呼ばれます.それぞれにおいてxは

 ①不定元 ②変数 ③④未知数

と呼ぶのではないかと思います.

考える対象としては,

 ①では「式そのものの性質」

 ②では「xとyの関係」

 ③④では「関係式を成り立たせるxの条件」

となると思います.

 

そこで気になったこと・・・


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この問いの答えは模索中です.
結論が書かれていると思った方,スミマセン.

先生が用語を濫用するせいで,教わる生徒が混乱したり,あいまいな理解になってしまったりする可能性があるな,と思いました.
教える側も,普段はあまり意識せずに,「自分にとっての慣れた用語」を使ってしまうのですよね.
生徒とは認知の仕方が違うので,できるだけ正確性を重視したいな,と思います.
イメージを伝えたいという先生の思いが逆効果になる可能性もあるのですね.

重心とベクトル 「重りをどう分割するか?」で色んな見方

空間ベクトルによる点の表現の理解を少しでも深めてもらえたらと思います.
重心を使ったアプローチです.
係数の和=1」の意味も合わせて確認していただければと思います.

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左上の図のように,四面体の4頂点にそれぞれ13,4,4,4の重りを置きます.
合わせて25の重さです.

これが1か所に集まって25の重り1個にするなら,どこに置くべきか?

その場所を重心と言います.
その点Xはベクトルを用いて,図のように表すことができます.

このXの面白いところは,「いくつかの重りの重心を先に考えておいて,あとで合体しても同じ重心になる」ということ.

線分の両端に重りをおくと,重心は内分点
三角形の頂点に“同じ重さ”の重りを置くと,重心は,三角形の重心

(右上の図)
A,B,Cにある重りを集めると,三角形ABCの重心Gに12の重りがあることなります.線分OGを12:13に内分する点がXです(13:12ではありません!).


(左下の図)

O,Aにある重りを集めると,線分OAを4:13に内分する点Dに17の重りがあることになります.
だから,重心Xは,平面BCD上にあることが分かります!
平面BCDと直線OGの交点がXである」と言えるわけです.
ちなみに,図にはないですが,BCの中点Mに8の重りがあることにして,「線分DMを8:17に内分する点がXである」とも言えます.


(右下の図)

最後はちょっと変わった考え方です.
Oにある重りを,1,8,4に分けて,それぞれA,B,Cの重りと合体させます.
すると,各辺の内分点に5,12,8の重りがあることになります.
これらの3点P,Q,Rを通る平面上にXがある」とも言えるのです.

それぞれをベクトルで表現したものと比較してみてください.
分点の位置ベクトルの「係数の和が1になる」ようになっていますね.

これで,線分上・平面上にあることを表現できています.

定性的なアプローチとして,なかなか面白いですね!

統計なんて数学じゃない,と思っている方へ

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これからの高校数学関係者,統計のできる人がこれから生き残れる人になるはず!
純粋に「統計」ができるというだけではなく,「他分野との融合」もできる人です.

融合の最も基本的なものは,数列の和の計算でしょう.
何らか確率変数の期待値や分散と「解釈」できる和は,統計量として「別公式」で計算できることもあるのです.

その際によく使うのがベルヌーイ分布(0と1の値をとる確率変数).


上記のあることとは・・・

 

k=1,2,3,‥‥‥,n-1について

  X_k=1(k回目までずっと表が出たとき)

  X_k=0(上以外のとき)

と定めると,Xとどんな関係があるでしょう?

例えば,

  表,表,表,表,裏,‥‥‥

となるとき,

  X=5

ですが,

  X_1=X_2=X_3=X_4=1,

  X_5=X_6=‥‥‥=X_n=0

で,

  X=1+X_1+X_2+‥‥‥+X_n ‥‥‥①

となっています.

n回連続で表が出るときの

  X=n+1

も,

  1+X_1+X_2+‥‥‥+X_n=n+1

となって,ちゃんと①を満たしています!

 

期待値の和の法則から

  E(X)=1+E(X_1)+E(X_2)+‥‥‥+E(X_n)

となるのです.

 

さあ,あともう少しです.

各X_kの期待値は,

  E(X_k)=1×(1/2)^n+0=(1/2)^n

なので,上記のようになるのですね.

「統計も悪くないかな?」と思ってもらえたら幸いです.

そんな方には,この本がオススメ(結局,宣伝)

   ☟

「和と一般項の関係」を誤認してみたら

以下の記述,どう思われますか?
明らかに間違っているのですが,どこがおかしいのでしょう?

 

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和を考えるとき,ある決まった1つの数列

 { a_n } : a_1,a_2,a_3,a_4,‥‥‥

で前から順に足していった和は数列で

 { S_n } : a_1,a_1+a_2,a_1+a_2+a_3,a_1+a_2+a_3+a_4,‥‥‥

という数列になります.

 S_1=a_1,S_2=a_1+a_2,S_3=a_1+a_2+a_3,
 S_4=a_1+a_2+a_3+a_4,‥‥‥

 です.

一方,冒頭の和は,足されるものの中に個数の n が含まれています.
だから,「1つの決まった数列で前から順に足している」のではないことが分かります.

・n=1のとき,1(1-1)

・n=2のとき,1(2-1)+2(2-2)

・n=3のとき,1(3-1)+2(3-2)+3(3-3)

・n=4のとき,1(4-1)+2(4-2)+3(4-3)+4(4-4)

決まった数列の和を2つ考えるときに,各 n についての和が等しいなら,元の数列もまったく同じ数列です.

微分積分の関係に似ています)

 

しかし,決まった数列の和ではないとき(足すものの式に n が入っている)ときは,そうはいかないようです.

((∫[0,x] (xーt)dt を x で微分して,「x-x」としてはならないのと同じ!)

 

「区分求積」が「無限級数」だと思っている人も,注意しておいてくださいね(笑)

僕の好きなグラフの仲間が,高校数学の根幹を揺るがす?

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赤いグラフを表す関数は,高校数学の根幹を揺るがすような危険なグラフです.
ちょっと説明してみます.


その前に,右下にある青い方のグラフ.
僕の好きなもので,関数

  f ( x )=x sin ( 1/x )  ( x ≠ 0 ) , f ( 0 )=0

のグラフです.
x=0 の周辺で無限に激しく振動するのが,たまらないですね.

さて,x → ∞ のときの y の極限はいくらでしょう?

  lim(θ→0) sinθ / θ=1

を使える形で,y → 1 です.

このグラフ,大好きなのです.
0 周辺の無限振動と,遠く離れても 1 を超えることができない.
なんかカワイイです.
x=0 周辺では,増加と減少が激しく変化し,極大・極小になる点が無限に存在し,正確に描くことができないことも魅力ですね.
連続関数なのにグラフを描かせてくれないという高嶺の花(笑)
花の断面にも見えてきますね.


さて,この f ( x ) に 2| x | を加えたのが,赤い方のグラフを表す関数です.
こいつはかわいくない!

x=0 周辺で無限振動し,増加と減少が激しく変化し,極大・極小になる点が無限に存在するのは,赤い y=f ( x ) と同じ.
ですが,x ≠ 0 のときy > 0 になっているので,なんと

  x=0で最小値 0


をとります.

しかも連続関数.

しかし,この前後で増減は変化していない.
と言うか,増減は確定していない.

この関数の位置づけは?
高校数学の根幹を揺るがす存在かもしれません.


高校数学における極値をとる点の定義(連続性は前提として)

 ①増減が変わる点

 ②局所的な最大値・最小値をとる点



教科書によって定義が違うことを以前に紹介しました.


青い関数で,x=0 において,

 ①の定義では,極値をとらない

 ②の定義では,極値をとる

ことに・・・
正しいのは,いったいどっちなんでしょう??

大学の定義に照らすと,「“極値である”が正しい」ということになるのですけどね.

高校生に分かりやすくなるように大学数学を噛み砕いて作られている数学Ⅲ.
通常は困らないように噛み砕いていますが,重箱の隅の隅をつつくと,こういう不完全さが露呈します.
これを声高に批判することもできます.
どう向き合うかは,その人次第です.

この辺りは入試問題で出題してはならない領域と思っておくのが良いでしょうね.
また,高校数学は不完全だ,ということを知るための探求学習のテーマとしては面白いものです.

 

極値については,もう1段階深い,変わった例もあるので,また紹介します.
それも素敵なグラフになります!

こんな和の公式,覚えられるわけがない!

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何とコレ,予想通り等差数列の和の公式なのですね.
より詳しく言うと,等差数列の和も計算できる公式.

意味を説明していきます.

※「aとdの定義を書いていないから,問いとして不成立」というご指摘はナシでお願いします.


それにしても,意味不明ですよね(笑)

公式の意味を探るのに,シグマを消去してみましょうか.
和の数列{S_n}と数列{a_n}の関係
  a_1=S_1
  a_n=S_n-S_(n-1) (n≧2)
を使ってみてください.


計算は端折りますが,n=1のときとn≧2のときのそれぞれから,

  (a_(n+1))^2=(a_n+d)^2 (n≧1) ‥‥①

が得られます!

何と,等差数列の漸化式の両辺を2乗したもの!

しかし,①では数列は1つには定まりません.

“各 n について,”

  a_(n+1)=a_n+d または -(a_n+d)

が成り立つ数列なら何でも①を満たすからです.


例えば,a=1,d=2とします.


①を満たすような数列の1つに等差数列

  1,3,5,7,9,11,13,15

がある,ということ.
“すべての n ”で
  a_(n+1)=a_n+2
になるものです.


“すべての n ”で
  a_(n+1)=-(a_n+2)
となる数列もあって

  1,-3,1,-3,1,-3,1,-3

です.これも①を満たしています.


それ以外にも①を満たす数列はあります.

例えば,

  1,3,-5,-3,1,3,5,7,-9

です.
  a_2=a_1+2
  a_3=-(a_2+2)
  a_4=a_3+2
  a_5=-(a_4+2)
  a_6=a_5+2
  a_7=a_6+2
  a_8=a_7+2
  a_9=-(a_8+2)
とランダムに“各n ”でどちらかの関係が成り立っています.
次の数は,
  7 または -7
です.
この数列でも,和の公式を使って足し算できるはずです!

  1+3+(-5)+(-3)+1+3+5+7+(-9)=3

が公式でも求まるか?

「理論上は,求まるはず!」と思っても,ドキドキします.

   {(±7)^2-1}/4-2×9/2
  =48/4-9=12-9
  =3

確かに!!

「絶対にこうなる」と思っていても,本当にそうなると嬉しいものです!
そんな爽快感こそが数学の醍醐味でしょうね.