yoshidanobuo’s diaryー高校数学の“思考・判断・表現力”を磨こう!ー

「大学への数学」執筆者・吉田信夫の数学探求ブログ(共通テスト系問題の研究報告)

大人の「収束の定義」 イプシロンεを使うヤツ

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1つ目の問いの答えは②です.
この書き方は,教科書的には認められないものです.
(習慣的に書いている人も多いでしょうし,入試答案で減点されるとまでは言えないと思います.教科書には書かれることはない,ということは確かです)


さて,「αに収束する」の否定を厳密に述べたものが分かりました.
これを否定したら,「αに収束する」の定義になります.

否定の基本:

①すべてのAで,Pが成り立つ

 (否定)↓↑(否定)

 Pが成り立たないようなAが存在する
 (あるAで,Pが成り立たないものが存在する)

②P→Qが真である

 (否定)↓↑(否定)

 反例(Pを満たすがQを満たさないもの)が存在する

 

●「αに収束する」の否定●

*********

ある正数εで,(*)を満たすものが存在する.
(*)任意の自然数Nに対し,「n>Nかつ|a_n-α|≧ε」となる自然数nが存在する

*********

これを否定しましょう!
それが,「αに収束」の定義です.


●1段階目●

*********

すべての正数εに対し,(*)でない.
(*)任意の自然数Nに対し,「n>Nかつ|a_n-α|≧ε」となる自然数nが存在する

*********


〇「(*)でない」とは?〇

+++++++++

ある自然数Nで,『「n>Nかつ|a_n-α|≧ε」となる自然数nが存在する』でないものが,存在する

+++++++++


〇『  』でないとは?〇

+++++++++

【「n>Nかつ|a_n-α|≧ε」となる自然数n】は,【P⇒Q】の反例.
P,Qとは?

 P:n>N  Q:|a_n-α|<ε

『【P⇒Q】の反例nが存在する』でない,とは

  【P⇒Q】が真である

ということ.

+++++++++


以上から,次のようにまとめることができます.

●2段階目●

*********

すべての正数εに対し,

ある自然数Nで,

【n>N ならば |a_n-α|<ε】が真

であるものが,存在する

*********


頑張って直接説明すると

*********

「限りある近づき」の1つの基準としてεという数を,任意に(どれだけでも小さく)とっても,
ある番号N以降のすべての項a_n (n>N)について,a_nの値とαの誤差がε未満となる.

*********

です.
「どんなεについても」なので,「どこまでも限りなく近づく」という直観を表現するものになっていそうです.


これを大学の数学の授業でパッと与えられ,混乱してしまう人が多いようです.

まぁ,この記事の説明でしっくりくるかどうかと言われたら・・・

なかなか難しいですよね.