yoshidanobuo’s diaryー高校数学の“思考・判断・表現力”を磨こう!ー

「大学への数学」執筆者・吉田信夫の数学探求ブログ(共通テスト系問題の研究報告)

n倍角の公式を表す多項式(チェビシェフの多項式)の係数の秘密⑦

チェビシェフシリーズ,最終章です!

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角度が整数で,コサインが有理数になるのって,どんなとき?
なかなか深いテーマです.
これを扱うために,何回もチェビシェフの多項式について述べてきました.
集大成!

[結論]
0°~180°では,コサインが有理数になる整数の角度は

  θ=0°,60°,90°,120°,180°


こんなこと,どうやったら示せるんでしょう?

ちょっと下準備から.


係数が整数の多項式f(x)において最高次の係数が1であるとします.

  f(α)=0となる有理数αが存在したら,それは「整数」

となること,ご存じですか?

[証明]
  α=p/q(p,qは互いに素な整数で,q>0)👈既約分数の形

がf(x)=0の解であるとき,

  (p/q)^n+a(p/q)^(n-1)+‥+b=0

が成り立って,分母を払うと

  p^n+ap^(n-1)q+‥+bq^n=0

q=1を示したいので・・・

p^n以外をすべて移項すると

  p^n=q{ap^(n-1)q+‥+bq^(n-1)}

となって,右辺の整数はqの倍数.
よって,左辺の整数p^nもqの倍数だが,pとqは互いに素だから,q=1しかありえない!
つまり,αは整数である.

(証明おわり)


最高次の係数が1であるような,整数係数の多項式は,かなり特殊なのですね.
実数解は,整数でなければ,無理数となるのですから!


  2cos(nθ)=(2cosθ)^n+(係数が整数の2cosθの多項式)

において,2cosθ=xとおくと,右辺は

  x^n+(係数が整数のxの多項式)

と表せます.
最高次の係数が,何と,1ですね!


さて,角度が整数であるとは,どういうことでしょう?
1°は弧度法でπ/180です.
整数の角度は,πの有理数倍になっているので,適当な整数をかけると,2πの整数倍です.

θが整数°であるとします.
すると,nθが360°の何倍かになるような自然数nが存在し,cos nθ=1です.
ということは,

  2cos(nθ)=2

 ∴ (2cosθ)^n+(係数が整数の2cosθの多項式)=2

ですから,

2cosθ=xとおくと,

  x^n+(係数が整数のxの多項式)-2=0

となるのです.

xが有理数になることはあるのでしょうか?

もしあれば,最初に述べたように,xは,何と,「整数」です!

まとめます.

θが整数°であるとし,cosθが有理数であるとしたら,


  2cosθが整数

ということが確定します!

-2≦2cos θ≦2だから,

  2cosθ=-2,-1,0,1,2

 ∴ cosθ=-1,-1/2,0,1/2,1

しかありえないことが分かるのです!

だから,0°~180°では,コサインが有理数になる整数の角度は

  θ=0°,60°,90°,120°,180°

に限定されます!

sinθ=cos(90°-θ)だから,サインが有理数になる整数の角度が

  θ=0°,30°,90°,150°,180°

しかないことも分かりますね!

なかなかすごくないですか?
長らくのお付き合い,有難うございました.
また新シリーズを考えますので,よろしくお願いします.

 

 

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