yoshidanobuo’s diaryー高校数学の“思考・判断・表現力”を磨こう!ー

「大学への数学」執筆者・吉田信夫の数学探求ブログ(共通テスト系問題の研究報告)

高校数学教育者には,ぜひ,知っておいてもらいたい!「多項式」と「多項式関数」の区別

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「2次式」と「2次関数」.

実は違うのですけど・・・
違いは説明できるでしょうか?

 

まず,「関数」とは?

  x を代入して y を得るルールのこと

x に代入できる数全体の集合のことを,「定義域」と呼んでいます.
「数列」を関数と見るときは,定義域は「自然数全体の集合」

  N={1,2,3,‥‥‥}

a_n=f( n ) となる関数 f( n ) が一般項で,等差数列は,

  「自然数全体の集合を定義域として1次関数で表される」

というのが正確だろうと思います.


では,「多項式」と「多項式関数」の違い.
とくに2次の場合で話をしてみましょう.

「2次式」は,x^2,x,1 に係数を付けて足した形の「式」

  a x^2+b x+c

のことです.
2次ですから,a ≠ 0 としておくのが良いですね.


「2次関数」は,得られる y が,x をある「2次式」に代入して得られるということ.

  y=a x^2+b x+c

もちろん,a ≠ 0 です.


さて,ここからが本番.

2次式 f(x)=a x^2+b x+c と g(x)=p x^2+q x+r について

①2次式としての一致
 f(x) と g(x) が「2次式として」同じとは

  a=p かつ b=q かつ c=r …①


②2次関数としての一致
 f(x) と g(x) が「2次関数として」同じとは

  すべての x について f(x)=g(x)が成り立つ …②


①が成り立つとき,②は成り立ちます.
これは「明らか」と言って大丈夫です.


しかし,「②が成り立つとき,必ず,①が成り立つのか?」は自明ではありません.
次のような説明が必要になります:


*****************************************************
②は,

  すべての x について f(x)-g(x)=0 が成り立つ …②'

と言い換えられます.ここから①を導きます.

すべての x で成り立つから,x=1,2 でもf(x)-g(x)=0 が成り立ちます.
f(x)-g(x)は,高々2次の多項式ですから,

  f(x)-g(x)=s(x-1)(x-2)

と置くことができます.
さらに,x=0 でもf(x)-g(x)=0 が成り立つので,

  s(-1)(-2)=0 ∴ s=0

です.よって,多項式として

  f(x)-g(x)=0

 ∴ (a-p) x^2+(b-q) x+(c-r)=0 x^2+0 x+0

が成り立ち,

  a-p=0,b-q=0,c-r=0
 ∴ a=p かつ b=q かつ c=r …①

が導かれます.

*****************************************************

「何を代入しても同じだ」という関数としての性質を,係数比較で議論する「多項式」の言葉に直さないといけないのですね.

 

少しややこしくなりましたが,解読いただけたでしょうか?

多項式」と「多項式関数」の違いは,生徒にどれだけ正確に伝えるかは別として,教える側は知っておく方が良いのではないかと思います.


続編として,もう少し違った観点から,2つの違いを考えてみようと思います.
お楽しみに.