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「大学への数学」執筆者・吉田信夫の数学探求ブログ(共通テスト系問題の研究報告)

こういう問題,苦手ーー

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甲陽学院中学の算数の入試問題です.
(イラストはイメージです.「いらすとや」さんのイラストがかわいい(笑))

 

文字をたくさん使って強引にやれば良い!と思っても,そう簡単にはいかない!

条件の1つが不等式というのが厄介です.

つまり,文字で置いても,値を特定することはできない!

設定の特殊性に注目して,「求めよ」と言われているものを「求める」ことに集中しないといけないのです.

中学や高校の数学の先生は,けっこう苦手なのではないかな,と思って紹介してみました.

 

【文字で置きまくって解く】
A,B,Cの今の1日の仕事量をそれぞれA,B,Cと表すことにする.全体の仕事量をXとおく.
条件より
  20(A+0.5×C)=X
  24(B+0.5×C)=X
  15(A+B)<X<16(A+B)
である.つまり,
  A+0.5×C=X/20
  B+0.5×C=X/24
  X/16<A+B<X/15

(1) A+B+C=(1/20+1/24)X
  X/(A+B+C)=120/11
である.121=11×11であるから
  120/11=11-1/11
よって11日目の途中に終わる.

(2) A+B=11X/120-C
であるから,
  X/16<11X/120-C<X/15
  240/7<X/C<40
240/7=34.2……より,最も早くて35日目,最も遅くて40日目.

【できるだけ文字を使わずに解く】
20と24の最小公倍数は120.適当に単位を調整して,仕事の全体量が120であるとする.
すると,「Aと(Cの半分)の和」「Bと(Cの半分)の和」はそれぞれ,1日当たり6および5の仕事量.

(1) これらの和11が今の「A,B,Cの和」の1日当たりの仕事量になる.
120/11=11-1/11より,3人では11日目の途中に終わる.

(2) 「AとBの和」では,1日当たり120/16~120/15の仕事量である.つまり,15/2~8である.
「A,B,Cの和」の1日当たりの仕事量が11だから,Cの1日当たりの仕事量は3~7/2である.
Cだけの場合は,120÷3=40,120÷(7/2)=34.2……より,最短34日目,最長40日目である.

いかがでした?

けっこう難しいですよね.

0.5C+0.5C=Cとなっているから解けるという・・・

ちなみに,こういう問題は,解く方としてはA,Bを求めなくても分かってしまうのが大事なのですが,作る方としてはA,Bが「適切な値として求まる」ことを確認しておくことも重要になります.

例えば,Aが負の数として求まってしまう,なんていう設定になっていてはダメですもんね.

「一般項」って,なんやねん!?

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教科書の漸化式に関する部分に,次のような記述があります.

【漸化式がa_(n+1)=a_n+(nの式)の形のとき,階差数列を利用する方法で,一般項が求められることがある.】

何とも意味深な書き方です.

 求められることがある.

では,求められないこともあるのか?
ここだけを読んで考えてもよく分かりません.
関連する部分を調べてみましょう.

一般項の説明は,次のようになっています.

●一般項の定義●
a_n=2n-1のように数列{a_n}の第n項a_nがnの式で表されるとき,これを数列{a_n}の一般項という.一般項が与えらられると,nに1,2,3,……を代入することにより,その数列の各項を求めることができる.一般項を用いて{2n-1}と表すこともある.

➤nの“式”で,n=1,2,3,……を“すべて”代入できるものが,一般項か?
“式”の定義が明確ではない気がするけれど,とりあえずこれが定義だとすると・・・

●{a_n}:-1,1,-1,1,……
a_n=(-1)^n は一般項
a_(2m-1)=-1,a_2m=1 は一般項ではない

●{a_n}:-5,2,4,8,……
a_1=-5,a_n=2^(n-1) (n≧2) は一般項ではない

➤「第n項をnの式で表せ」なら,nの値によって場合分けして答えても良いが,「一般項を求めよ」では分けるのは許されない

よし,一般項を求めよう!

初項だけ本来の値よりも6小さくなっているから,
 a_n=2^(n-1)-6*[1/n]
で表せますね!
なお,ガウス記号は,整数部分で,
 {[1/n]}:1,0,0,0,0,……

●階差数列と一般項●
{a_n}の階差数列を{b_n}とすると
 n≧2のとき a_n=a_1+Σ_(k=1)^(n-1) b_k

この“式”ではn=1を代入できないから,一般項とは言えない!

 a_1=0,a_(n+1)=a_n+1/n^2

など.
だから,和が計算出来て,nを用いた式で表せて,しかもn=1でも成り立つときのみ,「一般項が求められる」のでしょう.

そうそう,n=1が例外になるタイプ,もう1つ思いつきますね.

●数列の和と一般項●
数列{a_n}の初項から第n項までの和をS_nとすると
 初項は   a_1=S_1
 n≧2のとき a_n=S_n-S_(n-1)

上記が一般項の定義であるとすると・・・

 S_n=n^2である数列{a_n}の一般項を求めよ.➤OK!

 S_n=n^2-1である数列{a_n}の一般項を求めよ.➤NG!

 S_n=n^2-1である数列{a_n}の第n項を求めよ.➤OK!

となるのかも知れませんね.

つまり,S_n=n^2-1である数列{a_n}は,

 a_1=1-1=0

 n≧2のとき,
 a_n=(n^2-1)-{(n-1)^2-1}=2n-1

で,初項だけ例外的です.

 {a_n}:0,3,5,7,9,……

一般項を求るなら・・・
またガウス記号では面白くないので,

 a_n=lim(m→∞)(2n+1-(1/n)^m)

とか,

 a_n=min{2n-1,3(n-1)}

とかね.

●おまけ●
ふと思ったのですが,

 a_1=0,a_(n+1)=a_n+1/n^2

の例,n≧2のとき

 a_n=Σ_(k=1)^(n-1)(1/k^2)

で,n=1を代入できず,一般項とは認められないわけですが・・・

 a_n=Σ_(k=1)^(n)(1/k^2)-1/n^2

にしてしまえば,n=1でも成立してしまいますね(笑)
これは,一般項と呼べるのでしょうか??
つまり,「Σ_(k=1)^(n)(1/k^2)-1/n^2」はnの“式”なんでしょうか?

Σを用いたものは,nの“式”に含めない可能性も否定できないな,と気づいてしまい,ここまでの議論は,前提が誤っている可能性もある,ということになってしまいました.

謎は深まるばかり・・・
(結論を期待されていた方,ごめんなさい)

「 ,」の乱用が,数学学習者の敵!?

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数学の教科書には様々なカンマが登場します.

同じように見えて,異なる意味で使われています.
もしかしたら,これが,数学を分かりにくくする原因の1つになっているのかも知れません.
数学の先生は,過去の経験をもとに当たり前のようにカンマを使い分けます.
授業中には,話の流れがあるから,あまり気にならないでしょうが,復習でノートを見るとき,教科書を見返すとき,・・・カンマの乱用で意味が分からなくなってしまう可能性があると思います.
このような経験の積み重ねが,生徒の「よく分かんないから,そういうものだと受け入れようかな」を生み出しているのではないでしょうか?

数学Iの教科書を調べてみました(一部,例外アリ).
どんなカンマ「,」があるのでしょう??

大きく分けて,「区切り」「連立(かつ)」「並記(または)」があり,細かく見ると以下の13種類がありました.

1.区切り
①数や式を列挙するときの区切り
②並び順に意味のあるものの項の区切りに
③集合の要素の区切りに
④並びに意味のある数の組の区切りに

2.連立(かつ)
⑤条件や定義の連立
⑥集合の定義における条件の連立
⑦等式の連立
⑧不等式の連立
⑨不等式と非等式(?)の連立

3.並記(または)
⑩複数ある答えの並記
⑪方程式の解の並記
⑫不等式の並記
⑬連立不等式の解法(2次関数)に見る並記

本記事では,これらの例を挙げて少し解説するだけですが,何かの参考になれば嬉しいです.

 

1.区切り

①数や式を列挙するときの区切り
「次の整式A,Bについて…」
「Pは1,3,5,7,9を要素とする集合である」
「{1,2}の部分集合は∅,{1},{2},{1,2}である」

数学的な意味を持たず,「読点(、)」の代わりに用いる「,」とほぼ同じか?

データの分析では,間に「,」をいれず,全角スペースで区切っていることが多い(例外あり).


②並び順に意味のあるものの項の区切りに
自然数1,2,3,……」
「変量xについてのデータが,n個の値x_1,x_2,……,x_n」

順に並ぶことに意味があるものについて,項の区切りを表すのに用いている.
①との違いが分かりにくい.


③集合の要素の区切りに
「集合P={1,3,5,7,9}」

{ }で囲うと順番に意味はなくなるが,そのことは触れられていない.

という表記もあるが,これは,①読点と同じ


④並びに意味のある数の組の区切りに
「点A(1,2)」
「2つの変量x,yのデータが(x_1,y_1),(x_2,y_2),……,(x_n,y_n)」

( )で囲うと順番に意味が与えられるが,そのことは触れられていない(中1の教科書では,座標は「数の組合せ」として定義しているが,x,yとの対応を説明していて,並びに意味があるような雰囲気は出している).


2.連立(かつ)

⑤条件や定義の連立
「整式A=x^2,B=x+1とする.」
「集合A={1,2},B={3}とする.」

複数のものを同時に定義したりするときに使うようだ.
①のように「読点(、)」の代わりとも思えるが,“かつ”の意味になっている.


⑥集合の定義における条件の連立
「A={x|-1<x<1,xは実数}」

“かつ”になっている.A={x|式,式}という表記は無かった.

条件の並記には「pまたはq」や「pかつq」と書かれている.


⑦等式の連立
「(2次関数の決定)-1+p=2,1+q=-3 ゆえに p=3,q=-4」
「(平行移動など)x=X+p,y=Y+q すなわち X=x-p,Y=y-q」
「(確率変数での積事象)P(X=a,Y=b)」

条件としては“かつ”である.

「3点を通る2次関数の特定」では,「,」ではなく「{ 」を用いている!


⑧不等式の連立
「(2次関数の応用・図形の存在から定義域)x>0,20-2x>0 であるから 0<x<10」

何も説明なく,「,」で“かつ”を表している!
“または”にすると「実数全体」になっておかしいから,“かつ”のはずだ,と判断させるのか?
「{ 」で書くべきところを,「,」にしているのは行数の節約のためか?


⑨不等式と非等式(?)の連立
「(tanを考えるとき)0°≦θ≦180°,θ≠90°の範囲でθを動かすと」

“または”と見たら実数全体になってしまうから,“かつ”なのか?
しかし,θ≠90°は「θ<90°または90°<θ」だから,分かりにくい.

別の場所では,「0°<θ<90°または 90°<θ<180°」と書かれている!


3.並記(または)

⑩複数ある答えの並記
「求める直線はy=x,y=2x(数Ⅱ)」

「直線」とあるから意味をなすが,何もないと連立方程式に見える.
区切りと考えることもできるか?


⑪方程式の解の並記
「(x+1)(x-3)=0 すなわち x=-1またはx=3 ゆえに x=-1,3」

左辺は1つ(未知数x),右辺は複数個(解)は,x=-1またはx=3つまり,x∈{1,2}を表しているようだ.
等式の連立「x=-1,x=3」では,「x=-1 かつ x=3」で,これを満たすxは存在しなくなる!?

解の公式x=(-b±√(b^2-4ac)/2aは,x∈{(-b+√(b^2-4ac)/2a,(-b-√(b^2-4ac)/2a}で,
 x=(-b+√(b^2-4ac)/2aまたはx=(-b-√(b^2-4ac)/2a
である.この2つのうち,いずれかを満たすものということ.
各a,b,cについて,どちらともが解であることが大事!
※これより前に「9の平方根は3と-3,すなわち±3である」との記述あり.


⑫不等式の並記
「不等式|x|>3の解はx<-3,3<x」

条件としては“または”である.
【注】として「x<-3,3<xは,x<-3と3<xを合わせた範囲を表す」と書かれているが,“合わせた”は定義されていない.「集合と命題」よりも前に1次不等式,絶対値を扱うためである.

その後は,何も確認せずに「x<-c,c<x」などと書いてあるから,不等式の並列では“または”を採用するのか?

※「|x|=cの解はx=±c」とある.その後に,「a≧0のとき|a|=a,a<0のとき|a|=-a」とある.
「|x|=xまたは|x|=-x」は,各xによってどちらかに決まってしまうから,|x|=±xとは書けないことも触れてもらえたら良いのにな,と思う.

⑬連立不等式の解法(2次関数)に見る並記
「  x^2+x-2<0
 {      で,1つ目から-2<x<1…①,2つ目からx≦-1,0≦x…②
   x^2+x≧0
 ①と②の共通部分を考えて-2<x≦-1,0≦x<1」

ここでは「,」で“または”を表している.問題文では,「{ 」で“かつ”.

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「そして」は,「かつ」なのか?「または」なのか?

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実数xについて
 [1]x^2=1を解くと,x=1とx=-1
 [2]x≧-1とx≦1を満たす条件は-1≦x≦1

[1]は,解の集合{-1,1}において,「要素は1と-1である」と言っています.
解xについて
  x=-1 または x=-1
が成り立つということです.

[2]は,「x≧-1の範囲」と「x≦1の範囲」の両方に含まれるxを考えています.
  x≧-1 かつ x≦1
です.
  x≧-1 または x≦1

は,「xは実数」という条件になりますね.

「と」つまり「そして」は,付加を表すのですが,[1]は集合に要素を付加している感じ,[2]は条件を付加していっている感じです.
 x=1とx=2とx=3と・・・
 ☞{1}∪{2}∪{3}∪…

 x≧1とx≦3と0≦x≦2と・・・
 ☞[1,∞)∩[-∞,3]∩[0,2]∩…

別の例でもやってみましょう.

 ①メガネの人,そして,バレー部の人は,
  明日10時に集合してください.

 ②メガネ,そして,バレー部である人は,
  明日10時に集合してください.

①と②の「そして」は,何か違う感じがしませんか?

全人類を4つの属性に分類して説明してみます.
 1)メガネのバレー部員
 2)メガネでないバレー部員
 3)バレー部でないメガネ
 4)バレー部でない非メガネ

①は,1),2),3)のいずれかの属性である人に呼び掛けていると思います.
「メガネ全体の集合に属する人」と「バレー部全体の集合に属する人」が対象です.
集合としての「付加」になっていると思います.

 メガネの人に加え,バレー部の人も,集まれ

です.

②はどうでしょう?
こちらは,条件の「付加」になっていて,集合としては「共通部分」になっていると思いませんか?
「メガネという条件」と「バレー部という条件」を満たす人が対象です.
つまり,1)だけに呼び掛けている,と.

 メガネであることに加え,バレー部でもあるような人は,集まれ

ということ.

このように,「そして」には2つの捉え方があるようです.
では,それを解消するには?
②については,

 ②’メガネで,かつ,バレー部である人は,
   明日10時に集合してください.

とするのが良さそうです.数学では,andを「かつ」と表現することが多いです.

また,①は,条件ベースの言い方にすると良いのかも知れません.つまり,

 ①’メガネ,または,バレー部である人は,
   明日10時に集合してください.

です.いかがですか?これだと,

 メガネの人に加え,バレー部の人も,集まれ

になっていますよね?
でも,こうすると,集合として「そして(and)」だったのが,条件として「または(or)」に変わってしまう気がします.
「and=そして」には「付加」の意味があり,

 条件の付加=共通部分=かつ

 集合の付加=和集合=または

という違いが生まれるのだと思います.
私の属性は1)なので,どっちにしても集まりますけどねwww

説明するときに気を付けたいな,と思う経験があったので,共有してみました.


ここで,ちょっとオマケです.

 ①’メガネ,または,バレー部である人は,
   明日10時に集合してください.

 1)メガネのバレー部員

を含んでいることに違和感を抱く人も居ます.
確かに,

 店員:食後にコーヒー,または,紅茶がつきます

 お客:では,コーヒー,かつ,紅茶でお願いします

とは,なりにくい・・・

でも,「または」は少なくとも一方を表していて,

 「どちらか一方」または「両方」

になってしまいます.
この「または」でつながれている「どちらか一方」と「両方」には共通部分(ダブり)がないから,安心ですね.

 食後にコーヒー,または,紅茶がつきます,ただし,両方はダメです

 食後に,コーヒー,または,紅茶から,ちょうど1つを選んでください

 食後につくのは,コーヒー,紅茶の排他的論理和です

う~ん,難しい.
いやいや,数学の問題文じゃないんだから

 食後に,コーヒー,または,紅茶のいずれかがつきます

ですね.

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空集合 ∅ に関する考察

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※本稿は,高校数学における空集合の扱いについて考察するものです.
 公理的集合論については,考えません!

 n(A∪B)=n(A)+n(B)-n(A∩B)
が常に意味をなすためには,要素の個数が0である集合が必要になる.
そうして定義された空集合は,あらゆる集合の部分集合である.
一般にA∩B⊂Aであるから,A∩B=∅ であるようなBを考えることで ∅ ⊂Aとなるのである.

では,Aに含まれる空集合と,Bに含まれる空集合は,同じなのだろうか?
空集合は1つしかないのだろうか?

結論は

 「同じと言えば同じ,違うと言えば違う」
 「1つと言えば1つ,色々と言えば色々」

である.
少し長くなるが,お付き合い願いたい.

さて,ここで,「集合の差」を定義しておく(高校数学では登場しないはず).

 A-B=(Aの要素のうち,Bの要素でないもの全体の集合)
    =A∩(Bの補集合)

☞ここでちょっとした疑問がある方,その通りです!
 後ほど,詳しく考えましょう.

 

空集合は1つ?―①】

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一般に,

 (A-B)∩(B-A)=∅ ,A-B⊂A ,B-A⊂B

であり,

 ∅ =(A-B)∩(B-A)⊂A-B⊂A
 ∅ =(A-B)∩(B-A)⊂B-A⊂B

であるから,同じ空集合がA,Bに含まれている.
また,

 ∅ ⊂A∩B,A∩B⊂A,A∩B⊂B

であるから,この ∅ も,A,Bに含まれている.
Aに含まれる空集合と,Bに含まれる空集合は,同じであるようだ.

しかし,(A-B)∩(B-A)=∅ の空集合と,∅ ⊂A∩Bの空集合は,同じだろうか?

 ((A-B)∩(B-A))∩(A∩B)=∅

だから問題ないのだろうか?

 A⊃(Aの部分集合)⊃(Aの部分集合)⊃……⊃(Aの部分集合)=∅

とAの部分集合を次々と連ねて空集合に至る道を作っていくと,どんな道も同じ空集合に至っているのであろう.
Bから初めて,どんな道をたどっても,同じ空集合に至る.

 すべての道は空集合に至る.

 

空集合は1つ?―②】
上では,少し胡散臭い説明になった.
1つしかないことを,しっかり確認してみたい.

空集合が2つあるとしてみよう.(空集合その1)と(空集合その2)である.
空集合は,あらゆる集合の部分集合であるから,空集合の部分集合でもある.
つまり,

 (空集合その1)⊂(空集合その2)
 (空集合その2)⊂(空集合その1)

の両方が成り立ち,これは2つの空集合が一致する,ということを意味する.
異なる集合であるはずが一致してしまったので,これは矛盾である.
よって,空集合は1つしかない!

 

【なぜ,あらゆる集合の部分集合なのか?―①】
上にも登場したが,「補集合」というものがある.

 (Aの補集合)=(Aに含まれないもの全体の集合)

では,空集合の補集合は?

 (∅ の補集合)=(∅ に含まれないもの全体の集合)

そもそも ∅ には何も含まれていないので,

 (∅ の補集合)=(すべてを含む集合)

である.除かれるものが無いからである.
すべてを含む集合を,「全体集合」という.

全体集合は,すべての集合を部分集合として含んでいる.
だから,補集合を考えることで,空集合は,すべての集合に部分集合として含まれている.

 (任意の集合)⊂(全体集合)
 ∴ (任意の集合)⊃(空集合)

 

【なぜ,あらゆる集合の部分集合なのか?―②】
上の説明では,少しごまかしが含まれている.
そもそも,「すべて」とは??

実は,この辺りで(素朴)集合論は限界を迎える.

 すべての集合を要素としてもつ集合

というものを考えられないからである(その集合にそれ自身も含まれて,おかしなことになってしまう・・・).
だから,命題

 任意の集合Aについて,「∅ ⊂A」が成り立つ

は,集合論の命題ではなくなっている.
その説明は少しややこしいが・・・
集合に関する条件「∅ ⊂A」の定義域(条件に代入して真偽を考えられるA全体の集合)が,集合にならないからである.

この困難を解決するのに,「公理的集合論」という大人の集合論が採用される.
しかし,高校数学でそれを持ち出すわけにはいかない.
だったら,どうするか?

 高校数学に関連するすべての集合を要素にもつ集合

を便宜上,全体集合としてしまうのである.
大人でも,

 ふつうに数学をやる上で困らないくらいの十分な量の集合を要素にもつ集合

を全体集合としていると考えられる.

この十分大きな全体集合をXとおくことにする.

 ∅ =(Xの補集合)

である.X-Xといっても良い.
集合Aについて

 ∅ =(Aの部分集合)
  ⊂(Aの部分集合)
  ⊂……
  ⊂(Aの部分集合)
  ⊂A
  ⊂(Aを部分集合として含む集合)
  ⊂……
  ⊂(Aを部分集合として含む集合)
  ⊂(Aを部分集合として含む集合)=X

という色んな道があり,その両端は必ず同一の空集合と全体集合である.

 

【実際に数学をやるときには・・・】
実際に問題を解いたりするときには,全体集合が,例えば「整数全体の集合Z」や「実数全体の集合R」などに指定されているときがある.

 (奇数全体の集合)

の補集合は,何だろうか?

 (偶数全体の集合)

だろうか?
それは,全体集合がZの場合である.

 Z-(奇数全体の集合)
 =(偶数全体の集合)

全体集合がRの場合は

 R-(奇数全体の集合)
 =(偶数全体の集合)∪(整数以外の実数全体の集合)

である.
このように,補集合というのは,全体集合の取り方によって変わってしまう相対的な概念である.

ここで,最後の疑問.

 

空集合は,本当に1つなのか?】
全体集合Xを固定したら,空集合

 ∅ =X-X

として定まり,ただ1つしかない!
しかし,異なる全体集合のもとで考えた空集合,例えば,

 (Rでの空集合)=R-R=(RにおけるRの補集合)
 (Zでの空集合)=Z-Z=(ZにおけるZの補集合)
 (平面ベクトル全体の集合での空集合)

は,同じものだろうか?
これは,前提となる全体集合が異なるので,同時に考えるものではない.
同じか違うか,議論するようなものではない!
どうしても議論したいならば,

 X=R∪(平面ベクトル全体の集合での空集合)

を新たな全体集合として,その中で,

 X-X=∅

を考えることになり,これ1つしか,空集合はない!

もし

 この空集合は,Rでの空集合と同じか?違うか?

と問われても・・・

 全体集合が違うので,比較不能です

と答えるしかない!

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統計講演会のお知らせ!

日本数学検定協会さまからお声かけいただき,7/11(日)のオンライン講演会で話者をさせてもらうことになりました.

www.su-gaku.net

 
 
さて,素人なのに思い切って書いた「統計」の本.
 

 
この本の存在も,今回のキッカケになりました.
僕のような「数学好きの統計キライ」の方に向けて書いたものですが,この講演はまさにその延長線上.

 

1時間与えられたので,何を話そうか思案中です.
思い切って「定性的」なネタをたくさん入れようかな,などなど.
高校数学の一部としての統計をどう解釈することが可能であるか,自分なりにしっかり考えてお話しようと思います!

 

変なグラフ 小数部分 x-[x] によって

なかなか素敵なグラフが描けました.

 

f:id:phi_math:20210606131005p:plain

 

1つの式なのに2つに分岐して,それぞれが反比例のグラフ上にあります.

詳細は後ほど.

その前に簡単に基本の確認から.

 

 

まず,ガウス記号[ ]

実数xに対して,

 [x]=(x以下の最大の整数)

と定め,xの整数部分と呼びます.

 [3]=3 整数の整数部分は,その整数そのもの

 [π]=3 3.14……の整数部分は3

 [-1.3]=?

[-1.3]を-1と思ってしまうかも知れませんが,x以下の最大の整数なので

 [-1.3]=-2

です.

 -1.3=-2+0.7

と考えるのです.

y=[x]のグラフが,青い階段. 

f:id:phi_math:20210606131053p:plain

では,赤いグラフは?

これが小数部分を表しています.

 3の小数部分=0

 πの小数部分=0.1415.……

 -1.3の小数部分=0.7

です.

-1.3の小数部分は0.3ではなくて,0.7です!

小数部分は0~1の数値です.

式で書くと,

 x=(xの整数部分)+(xの小数部分)

 ∴ xの小数部分=x-[x]

です.

小数部分は0~1の値が周期的に繰り返されて,赤いグラフのようになります.

 

小数部分を使って,変なグラフを作ったので,それを紹介します.

 

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xの小数部分から0.99を引いた値と,0のうち,大きい方(同じのときは0)という値(maxの部分)を,xに加えています.

小数部分が0.99未満のときは,maxの部分が0で,y=xと同じ値.

小数部分が0.99以上のときは,maxの部分が小数部分そのもので,y=xよりもちょっと上に.

小数部分が0.99以上というのは,整数よりもちょっと小さい数ということです.

実数全体の99%は小数部分が0.99未満なので,グラフ全体の99%がy=xと一致しています.

ですが,定期的にy=xから離れるので,y=xは,このグラフの漸近線ではありません.

 

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これは,なかなか面白いと思っています.

xが整数ではないときにはy=xと一致し,xが整数のときだけそれより1だけ上に点があります.

だから,上の例と同じく,y=xに漸近はしません!

さて,どんな構成か,分かるでしょうか?

小数部分x-[x]ではなく,その-1倍である[x]-xになっています.

xが整数のとき,

 [x]-x=0 ∴[[x]-x]=0

xが整数でないとき,

 [x]-xは-1より大,0より小 ∴[[x]-x]=-1

これによって,整数のところだけ上に1上がるグラフになるのです!

 

f:id:phi_math:20210606131231p:plain

これは,小数部分x-[x]をxで割って,反比例っぽい雰囲気を出しつつ,xが整数のときにはy=xと一致するようにしています.

xの絶対値が大きくなると(x-[x])/xは0に限りなく近づくので,y=xに漸近します!

また,x<0の部分がy軸にも漸近しています.

 

では,これは??

 

f:id:phi_math:20210606131005p:plain

1/xの小数部分の-1倍が[1/x]-1/xです.

 1/xが整数,つまり,xが(整数分の1)のとき,0.

 そうでないときは,-1より大,0より小の値.

 

これに[ ]を付けた[[1/x]-1/x]は,

 xが(整数分の1)のとき,0.

 そうでないときは,-1.

 

それを2倍して1を加える(2[[1/x]-1/x]+1)と

 xが(整数分の1)のとき,1.

 そうでないときは,-1.

 

以上から,y=(2[[1/x]-1/x]+1)/xは

 xが(整数分の1)のとき,y=1/x.

 そうでないときは,y=-1/x.

 

2つの反比例のグラフ上に点が現れるグラフですが,xが(整数分の1)になるのはごく稀なので,実質100%がy=-1/x上.

y=1/x上には点々が現れるだけです!!

(ディリクレの関数というものを使おうかと思っていましたが,こっちの方がシンプルで面白いかな)

 

さて,|x|>1では常にy=-1/xだから,x軸はこのグラフの漸近線です.

では,y軸は漸近線でしょうか?

 lim(x→+0)y = ∞ または lim(x→+0)y = -∞ または

  lim(x→-0)y = ∞ または lim(x→-0)y = -∞ 

を定義にすると,「漸近線ではない」となってしまいます・・・

 

先日も

 

「漸近線」の限界に漸近してみる - yoshidanobuo’s diaryー高校数学の“思考・判断・表現力”を磨こう!ー

 

に書きましたが,高校数学の教科書(数研)での定義は次のようになっています.

 

定義

グラフが一定の直線に限りなく近づくとき,その直線を,そのグラフの漸近線という.

 

また,

 

関数f(x)において

 lim(x→b+0) f(x)=∞,lim(x→b+0) f(x)=-∞

 lim(x→b-0) f(x)=∞,lim(x→b-0) f(x)=-∞

 のいずれかが成り立つとき,直線y=bは曲線y=f(x)の漸近線である.

 

 と書かれています.

 

 「いずれかが成り立つとき,漸近線」

 

であって,

 

 「漸近線であれば,いずれかが成り立つ」

 

とは書かれておりません!

「定義」に従うと,「y軸は,y=(2[[1/x]-1/x]+1)/xのグラフの漸近線だ」と主張できるということですね.

 

以上,漸近線と関連して,小数部分を用いた変な関数を考えるシリーズでした.

お付き合いいただき,ありがとうございました.

「漸近線」の限界に漸近してみる

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漸近線とは?

 

Wikipediaには

 

解析幾何学において、平面曲線の漸近線(ぜんきんせん、asymptote)とは、十分遠くで曲線との距離が 0 に近づき、かつ曲線と接しない直線のことである。通常の定義では、漸近線は曲線と無限回交わってもよい

漸近線は存在するとは限らず、また複数存在する場合もある。漸近線を見出すことは、曲線の概形をつかむ一助となる。

特に、座標平面における関数に対しては、そのグラフの漸近線の方程式は(存在の可否も含めて)求め方が確立されている。関数のグラフの接線極限が存在するならばそれは漸近線に等しい

代数幾何学などでは、漸近線は無限遠点のみで曲線と接する直線と定義される 

漸近線として直線だけでなく曲線を考えることもある。

 

と書かれています(定義①と呼びます).

接するとか,接さないとか,定義に含まれているんでしょうか?

 

写真の下の方にある2つの曲線は,関数

 

青:y=sin(5x)/e^(x/3)

赤:y=(1+sin(5x))/e^(x/3)

 

のグラフで,x軸に漸近しています(と言って良いのか・・・???).

 

2つの違いは分かりますか?

 

青い方は,x軸の上下を細かく振動しながら,x軸に漸近しています.

この挙動を減衰振動なんて言いますね.

定義①でも,無限回交わっても良いそうなので,漸近線で良いのでしょう.

 

赤い方は,1+sin(5x)とすることでsin(5x)=-1となるxにおいてx軸に接しています.

定義①では,接してしまっているから,漸近線として認められないのかも・・・

 

(注)定義①では,「かつ曲線と接しない」の部分にも「十分遠くで」がかかっていると読むのが良いと思います.

 

y=xはy=xの任意の点における接線であるから,定義①では,y=xはy=xの漸近線にならないでしょう.

 

では,高校数学の教科書ではどうなっているでしょう?

 

中1の反比例の段階では,漸近線という言葉は登場しません!

初出はどこだと思いますか?

 数Ⅲの微分

 数Ⅲの無理関数?

 数Ⅲの双曲線?

 数Ⅱの指数関数,対数関数のグラフ?

その1つ前にあるのが

 数Ⅱの三角関数,y=tanxのグラフ

です.ここが初出のようです.

 

定義②

グラフが一定の直線に限りなく近づくとき,その直線を,そのグラフの漸近線という.

 

これに従うと・・・

 

赤も青もx軸に漸近するし,y=xはy=xの漸近線になりそうです.

 

実際,数Ⅲの教科書には,次のようにも書かれています.

 

関数f(x)において

 lim(x→∞) f(x)=a または lim(x→-∞) f(x)=a

が成り立つとき,直線y=aは曲線y=f(x)の漸近線である.また,

 lim(x→b+0) f(x)=∞,lim(x→b+0) f(x)=-∞

 lim(x→b-0) f(x)=∞,lim(x→b-0) f(x)=-∞

 のいずれかが成り立つとき,直線y=bは曲線y=f(x)の漸近線である.

 

関数f(x)において

 lim(x→∞) {f(x)-(ax+b)}=0

 または lim(x→-∞) {f(x)-(ax+b)}=0

が成り立つとき,直線y=ax+bは曲線y=f(x)の漸近線である.

 

極限を考えるだけで,「漸近線だ」と主張できるということです.

f(x)=xのとき,

 lim(x→∞) {f(x)-x}=0,lim(x→-∞) {f(x)-x}=0

ですから,y=xはy=xの漸近線です!

 

(注)直線は,真っ直ぐな曲線です.「曲線ではないから,漸近線の定義に当てはまらない!」とはならないのです.

 

一方,Wikipediaにも似た記述がありますが,

 

曲線y=f(x)が直線y=ax+bに漸近するとき,

 lim(x→∞) {f(x)-(ax+b)}=0

 または lim(x→-∞) {f(x)-(ax+b)}=0

が成り立つ.

 

という書き方になっています.

 

違いは分かりますか?

Wikipediaの方は,「極限の性質が成り立つからと言って漸近線とは限らないよ」という含むがありますね.

接するとかいうところにこだわっている感があります.

 

高校数学の範囲で考えると,「y=xはy=xの漸近線である」となりますが,これを敢えて主張することに意味がないから,考えることはほぼないでしょう.

万が一,「y=xはy=xの漸近線であるか?」と問われたら,「Yes!」と答えましょう.

2次方程式の解の公式を,3次方程式で使ったら・・・?

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色んな発想する人が居ますよね.例えば・・・

 

3次方程式 x^3-7x+6=0 の解は

 

  (x-1)(x-2)(x+3)=0

 

因数分解することで x=1,2,-3 と求まるのですが・・・

 

 x*x^2-7x+6=0 と見て,2次方程式の解の公式を使ったらどうなりますか?

 

という質問をされました(最初は何を言っているのか,わからなったです).

解の公式らしきものを使ってみると,

 

 x=(7±√(49-24x))/2x

 

です.

実際には,平方完成して式変形しているだけなので,ものと方程式の言い換えとして,間違いのないものではあります.

「解の公式」としての使い方であるかと言われたら,「違う・・・」となります.

それにしても,「何のこっちゃ?」という式ですが,

 

 x=(7+√(49-24x))/2x は x=2,-3

 x=(7-√(49-24x))/2x は x=1

 

を表しています!

 

さらに少し考えてみましょう.

 

3次方程式 x^3-7x+6=0 は3次関数

 

  y=x^3-7x+6

 

のグラフとx軸の共有点のx座標を考えていることに相当します.

 

  x*x^2-7x+6-y=0

 

と強引に見て,“解の公式”を使ってみると・・・

写真の式になります!

 

※ 分母にxがあるから,x=0だけは除かれます!

 

   y=x^3-7x+6 (x ≠ 0)

 

 を表しています.

 解の公式がa=0のときに使えなかったのと同じですね.

 この様子も,平方完成で式変形すると,よりよく分かります.

 

分母を払うと

 

  |2x^2-7|=√(49-24x+4xy)

 

となります.
これなら,x=0も考えて良いことになりますが・・・

x=0のとき,どんなyでも左辺と右辺は等しくなってしまいます.

つまり,

 

  y=x^3-7x+6 のグラフ

   と

  y軸

 

の和集合を表します.

y=x^3-7x+6だけをあんな式で表せたら良いのですけど・・・

何か方法はありますかね?

同一直線上にある条件が,AP=tABですか???

f:id:phi_math:20210523105849p:plain

 

【やはり,⇔は嫌いだ!
 
条件と条件を,軽々しく「⇒」や「⇔」でつなぎたくなる人,居ませんか?
お願いです.
使う前に,ぜひ,一歩踏みとどまってください.


写真にはあのように書きましたが,本当は,明記された全体集合を優先して,「Pの条件」として捉えます.
だから,右側を
 
 「AP=tAB」を満たす実数tが存在する
 
に変更するのが正しいです.
「AP=tAB」という式だけでは無意味で,“を満たす実数tが存在する”を書かないと,「Pに関する条件」ではないですから!!!
こういうところで手を抜いてしまうのは,誤った理解を招いたり,「何となくで受け入れよ」と強要することになったりで,細かいことをちゃんとやることによる分かりにくさよりも,マイナスが圧倒的に大きいように,私は思います(あくまで私見なので,ご気分を害されないように・・・).
 
写真で書いたのは・・・
全体集合を
 
  U={(P,t)|Pは平面内の点,tは実数}
 
に変えてしまうとどうなるか,という話です.
 
 Pが中点,t=5
 
を代入すると,
 
 左側は真,右側は偽
 
で,「⇔」は誤り,となります. 
 
そもそも,
 
 Pの条件 ⇔ Pとtの条件
 
という使い方は,良くないですよね・・・
 
写真でやったのは,こういうことです.
例で説明します.
例えば,
 
 xの条件 「x=1」
 
を,
 
 xとtの条件 「x+0・t=1」
 
と見ることはできます.
しかし,これも良くありません.
それならそうと全体集合を明記すべきだからです.
 
写真は,「同値の主張」の前に「Pについて」とあるから,「点Pに関する条件」です.
平面内の点Pを代入するごとに真・偽が決まり,左右の真偽が常に一致するかをチェックすることで,同値かどうかを判定するのです.
右側が,このままでは「Pとtの条件」だから,Pを代入しても真偽が決まりません.
これをPの条件に変えるには,主に2つの方法があって
 
 「AP=tAB」を満たす実数tが存在する
 
 「AP=tAB」がすべての実数tで成り立つ
 
です.
そのどちらであるかを読者に判断させるのは,不誠実です.
 
意味をくみ取ると,もちろん,前者なのでしょうが,“仰々しく”も「同値記号⇔」を使っているわけですから,そこはちゃんと書くべきですよね.
軽々しく「⇔」を使う風潮,本当に何とかならんかな,と思い,こうして書かせてもらっています.

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p=a+td は,「ベクトル方程式」なのか?

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「方程式」と「媒介変数表示」と「ベクトル方程式」

図形を等式で表すとき,言葉がけっこう錯綜します.

グラフとは…
関数y=f(x)に対して定義されるもので,点集合{(p,q)|q=f(p)}のこと

図形の方程式とは…
図形を点集合{(p,q)|p,qに関する条件…(*)}と表すとき,(*)を座標軸の文字x,yを用いた式に直したもの

2次関数y=x^2のグラフを,「放物線y=x^2」とも言い,y=x^2をこの放物線の方程式とも言う.
もはやイミフメイ(笑)
y=x^2という式には,少なくとも3つの側面があるようです.

ちなみに,円の方程式:x^2+y^2=1は,1つの式でy=f(x)の形には書けません.
だから,x^2+y^2=1は「曲線」と言うけれど,「グラフ」とは言えない!

さらに,y=x^2をy-x^2=0と変形すると,「y-x^2=0のグラフ」という言い方は,かなりビミョーな表現だと思います.


図形を表すのに,ある変数の値が変化することで,動的にとらえることがあります.
その変数が「媒介変数」です.

例えば,放物線y=x^2は

  {(p,q)|q=p^2}

ですが,これを

  {(t,t^2)|tは実数}

と表すこともあります.
式で書くときは,

  x=t,y=t^2 (tは実数)

という風に,x座標,y座標のそれぞれをtの式で表すことになります.

  x=t,y=xt (tは実数)

という“間接的”な表現になることもあります.
これらは,放物線の「媒介変数表示」と言っても,「方程式」とは言いません!

さて,ここで,直線について.

  直線y=2(x-1)+3

は,点A(1,3)を通り,傾きが2の直線です.
y=2(x-1)+3は,「1次関数」を表しており,「直線の方程式」と捉えることもできます.

この直線の方程式として

  2x-y+1=0 ……①

を考えることもできます.x,yの係数を順に並べたベクトル(2,-1)には,図形的に重要な意味があります.

  直線①と垂直である

という意味です.
垂直である理由は?

傾きが2の直線はベクトル(1,2)と平行です.これは方向ベクトルと呼ばれます.
👉ベクトルdと表すことにします.

ベクトルdとベクトル(2,-1)との内積を計算すると

  (1,2)・(2,-1)=2-2=0

で,(2,-1)は直線と垂直なベクトル(法線ベクトル)です.
👉ベクトルnと表すことにします.

①は,

  2(x-1)-1(y-3)=0

と書けるから,ベクトルを用いて

  (2,-1)・(x-1,y-3)=0
 ∴ (ベクトルn)・(ベクトルAP)=0 ……②

となります.
ここで,点Aは上で置いた(1,3)です.点Pは動点(x,y)です.

②はベクトルを用いた式で直線を表しているから,直線の「ベクトル方程式」と言います.

一方,ベクトルを用いた別の表現として,

  (ベクトルAP)//(ベクトルd)
 ∴ (ベクトルAP)=t(ベクトルd) (tは実数) ……③

と表すことができます(細かいことを言うと,「または,P=A」が抜けています・・・).

高校数学のベクトルにおいては,③も直線の「ベクトル方程式」と呼びます.
これに違和感を抱く人も多いようです.
なぜなら,③を書き換えていくと

 (ベクトルAP)=t(ベクトルd) (tは実数) ☚直線のベクトル方程式
 (x-1,y-3)=t(1,2) ☚直線のベクトル方程式(成分バージョン)
 (x,y)=(1+t,3+2t) ☚直線のベクトル方程式(成分バージョン)

 x=1+t,y=3+2t 👉直線の「媒介変数表示」

と,急に名前が変わってしまうからです!

だから,③を「ベクトルによる直線の媒介変数表示」と呼ぶのがベストだと,私は思うわけです.

 座標の文字x,yだけで表すのが「方程式」
 別の変数を用いて表すのが「媒介変数表示」

なんだから,

 ベクトルだけで表すのが「ベクトル方程式」
 別の変数を用いて表すのが「ベクトルによる媒介変数表示」

としたら良いのでは,ということ(別の動点を用いて表すのは,何と呼ぼうか・・・).


法線ベクトルを用いた直線の表示:

  (ベクトルn)・(ベクトルAP)=0 ……②

は間違いなくベクトル方程式です.
しかし,方向ベクトルを用いた直線の表示:

  (ベクトルAP)=t(ベクトルd) (tは実数) ……③

は,ベクトル方程式なんでしょうか??

まぁ,「ベクトル方程式ということにした」と定められたらそう決まるのが数学(いまは教科書準拠の高校数学)だから,グチグチ言っても仕方ない・・・

敢えて抵抗するならば・・・

  (ベクトルAP)//(ベクトルd)

  (ベクトルAP)と(ベクトルd)のなす角が0°または180°

と言い換えて,


  |(ベクトルAP)・(ベクトルd)|^2=|ベクトルAP|^2・|ベクトルd|^2

 ※ | | について,左辺は実数の絶対値,右辺はベクトルの大きさです.


と書くことはできて,これなら,有無を言わさず「ベクトル方程式」だ!という主張です.


長々と書いて,そんだけかい!と,僕ならツッコミます.
最後まで読んでいただき,ありがとうございました.

【増刷!】「ほぼ計算不要の思考力・判断力・表現力トレーニング 数学IA」

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【増刷!】
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三刷だと思います✌
授業のネタにしていただいているという先生の話を聞いたり、
正規の教材として学校採用していただいたと聞いたりしていると、
僕の手から離れて少しずつ数学教育に貢献してくれていると感じて、
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数学II編もヨロシクお願いします🙇
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新課程との絡みで、刊行時期は未定ですが、必ずみなさまのお手元に届けます!
引き続き、よろしくお願いいたします!
 
まだお持ちでない方は,こちらからどうぞ。
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円周率は3.15よりも大きいのか?

f:id:phi_math:20210420005424p:plain

今回は小ネタです.
数値に対する感覚は,今後の共通テストでも問われるでしょうし,世の中に出てからも役に立つ感覚になると思います.
数字のマジックに騙されないようにしましょう!

ところでご存じですか?
三角比の表のsin 1゜の欄には,0. 0175とあります.
これを利用して,円周率πについて考えることにします.

 

頂角が2゜の二等辺三角形の底辺と,中心角が2゜の扇形の弧を比較すると,

f:id:phi_math:20210420005443p:plain

弧の方が長いから

 2π×2/360>2sin 1゜

 π>180sin 1゜
  =180×0. 0175
  =3. 15

ということが導けてしまいます!!
画期的です(笑)

さて,ネタばらし.

三角比の表のsin 1゜の欄にある0. 0175は,小数第5位を四捨五入した数値.
だから,sin 1゜について分かるのは,

  0.01745≦sin1°<0.01755

を満たす数値であるという情報だけ.
だから,上記の議論から分かるのは

 π>180sin 1゜
  ≧180×0. 01745
  =3. 141
 
ということだけ.
残念ながら,円周率πは,3.15より大きい数ではありません! 
πの実際の値が
 
 π=3.14159265・・・
 
なので,なかなか真の値に近い評価になっているようです.

sin 1゜の小数第5位を四捨五入した数値が0. 0175で,

  0.01745≦sin1°<0.01755
 
だということですが,真の値はどの値に近いのでしょう?

  0.01745? 0.0175? 0.01755?
 
sin 1゜≒0. 01745と思うと評価が良くなったということは,0. 01745に近いのではないかと想像できます.実際,
 
  sin1°=0.0174524・・・

となるようです.予想通り!!
で,これを180倍したら,何と
 
 3.141433159・・・
 
πはこれよりも大きいことが分かるわけですが, 実際の値
 
 π=3.14159265・・・
 
に極めて近いようです.


数の表は,平方根,三角比,常用対数,標準正規分布などで登場します.
色んな面白いことが隠れているので,すぐにできる思考・判断・表現力のトレーニングになるし,探求のテーマにもなるかもしれません.

もちろん,僕の本でも扱っていますよ.
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問題文によっては,想定外の解答を認めざるを得なくなる件

今回も重箱の隅をつついていきます(笑)
もはやライフワークですね.

さて,ほぼ同じ問題を4つ挙げています.
いずれも,a=-1を答えるのがベストですが,a=1,-3という“誤答とされるもの”が正答と見なされ得るものがあります.
良ければちょっと考えてみてください.

f:id:phi_math:20210404230538j:plain

1⃣2⃣3⃣4⃣では、1行目の「~とする」の部分が違います.
これは,どういう意味なんでしょう?

また,1⃣4⃣2⃣3⃣では、最後が「条件を求めよ」と「値を求めよ」の違いがあります.
これは,どういう意味なんでしょう?


例えば,a=-1という式.
値の表示と見るか,条件と見るかで,意味が変わります.
値を表すものとしては,「aは-1だ」と主張していることになります.
条件を表すものとしては,aに代入できるもの全体の集合(全体集合)の要素をaに代入して,その都度,真偽が決まるものです.
 a=1を代入➤命題「1=-1」は偽
 a=-1を代入➤命題「-1=-1」は真
 ‥‥
これが2つ目の観点.

では,1つ目の観点は?
実は,「~とする」の部分は,aに関する条件を考える際の全体集合を指定する部分と捉えることができます.

1⃣2⃣では,実数解をもつ方程式であることが前提となっていて,全体集合は

  A={aは実数|a≦0または4≦a}

です.この中でα^2+β^2=3となる条件・値を考えることになります.

3⃣4⃣では,

  R=(実数全体からなる集合)

で考えることになります.
その中で,実数解をもち,かつ,α^2+β^2=3となる条件・値を考えることになります.

いずれも,値を答えるとしたら,「a=-1」しかあり得ません!
a=-3という値は,判別式を負にしてしまうから,不適です.虚数解をもって,その平方の和が3になる,ということです.
2⃣3⃣では,答えは「a=-1」という値になります.

しかし,「条件」を考えるときは,少し事情が違います.
条件には全体集合が付属しています.
全体集合の要素を代入して,真か偽かを考えるのが条件です.



4⃣
では,実数全体からなる集合Rで考えることになります.
実数解をもつ条件は「a≦0または4≦a」で,α^2+β^2=3となる条件は「a=-1またはa=3」です.
Rにおける条件として,
  「a≦0または4≦a」かつ「a=-1またはa=3」

 ⇔ a=-1
なので,これが条件です.

1⃣では,A={aは実数|a≦0または4≦a}が全体集合で,α^2+β^2=3となる条件は「a=-1またはa=3」です.
ここで,驚くべきことが起こります.
Aにおける条件として

  「a=-1またはa=3」⇔ a=-1

なのです!
理由は分かりますか?
集合Aの要素で,「a=-1またはa=3」に代入して真になるものを考えます.
 a=5を代入➤命題「1=-1または1=3」は偽
 a=-1を代入➤命題「-1=-1または-1=3」は真
 ‥‥

 a=3を代入 することはできない!!
代入できるのは,Aの要素のみ.つまり,a≦0または4≦aを満たす数のみ!

集合Aの要素で,「a=-1またはa=3」に代入して真になるものを集めると,{-1}です.
-1のみからなる集合で,条件「a=-1」の真理集合と一致します.
このようなときに,2つの条件は,Aにおいては,同値となります.

だから,1⃣でAに関する条件を答えるとき,「a=-1」でも「a=-1,3」でも,同じなのです.
例えば,「a=-1,1,2,3」でも,同じ条件です.
A={aは実数|a≦0または4≦a}における条件としては!

始めてみる方は,気持ち悪いですよね.
でも,これが隠された現実なのです.

例えば,全体集合を「10以下の自然数全体からなる集合B」とすると,Bにおいて,

  nは偶数
 ⇔ n=2,4,6,8,10
 ⇔ n=2k,1≦k≦5となる自然数kが存在する

が成り立ちますし,
  nは偶数
 ⇔ n=2,4,6,8,10
 ⇔ n=2,4,6,8,10,12,13,14,17,10000

も成り立ちます.偶数であるための必要十分条件

  n=2,4,6,8,10,12,13,14,17,10000
なのですね!驚きませんか?
真理集合が
  {2,4,6,8,10}∪∅={2,4,6,8,10}
となるからです.

これをテストで問うと,大変なことになりそうです(笑)
正しいのにね.

いまだに半信半疑の人,たぶん,居ますよね.
そういう人に質問です.

 0≦θ<2πとする.sinθ>1/2となるθの範囲を求めよ.

という聞き方に違和感はありますか?
条件「sinθ>1/2」には「sinθ=5」なども含まれますけど・・・

 0≦θ<2πとする.1/2<sinθ≦1となるθの範囲を求めよ.

でないと,問題として不成立ですか?

 0≦θ<2πとする.1/2<sinθ≦1000となるθの範囲を求めよ.

ではどうですか?
条件というのは,こんなものなのです.

 0≦θ<2πとする.sinθ>1/2となるθの条件を求めよ.

だったら,

 π/6<θ<5π/6 または θ=100 または θ<0


と答えられても,真理集合が

 [π/6,5π/6]∪∅=[π/6,5π/6]

となってしまうから,○にしないわけにはいきません.

だから,問題文の書き方に気を付けましょう!
生徒に空気を読むことを強いるのではなく,読む必要がない文で書いてあげてください.

こういう重箱の隅に気付ける生徒を育てたい!
または,そういう生徒が不幸にならないように先生方に,こういう考えの存在を知ってもらいたい.

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良ければ私の著書の方もご覧ください。
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数学Ⅲ・極限の論証について

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この答案,どのように思われますか?

満点をあげますか?
 

それとも,どこかに良くないところがありますか?
あるとしたら,①~⑦のうちのどこでしょうか?


********

実は,⑤がダメなんですが,理由は分かるでしょうか?
また,どうすれば認められる答案になるでしょうか?

例えば,数列{a_n}が

  a_(2m-1)=π,a_(2m)=0 (m=1,2,3,・・・)

で定義されているとしましょう.すると,

  lim(n→∞)a_n は存在しない

ですが,

  sin(a_n)=0 (n=1,2,3,・・・)

 ∴ lim(n→∞)sin(a_n)=0

です.

 

④は問題ないですが,ここから⑤,つまり,

  {a_n}は収束し,その極限値が 0 または π

という主張はどうでしょう?
上記のように,④であるが⑤でない例が存在しています!

ということで,ダメなのは⑤です.
では,⑤が無かったら,どうなるでしょう?

そうなんですね.
⑤が無いだけで,認められる答案に変わります.

  lim(n→∞)sin(x_n)=0
  π/2<x_n<π

から,

  lim(n→∞)x_n=π
  つまり,
  n→∞のとき数列{x_n}は収束し,極限値は π

が分かります.
細かくいうと,f(x)=sinx (π/2<x_n<3π/2)の逆関数の連続性を使っています.

①②③④⑥⑦だけならOKなんですが・・・

  「0じゃないことを言わねば!」

という意思を,⑤の形で書いてしまうのがダメなんです.
イメージを正しく伝えるための,正しい言葉は,数Ⅲにおいてはかなり重要なのですね.

収束は証明するもの!
丁寧に扱いましょう.