yoshidanobuo’s diaryー高校数学の“思考・判断・表現力”を磨こう!ー

「大学への数学」執筆者・吉田信夫の数学探求ブログ(共通テスト系問題の研究報告)

p=a+td は,「ベクトル方程式」なのか?

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「方程式」と「媒介変数表示」と「ベクトル方程式」

図形を等式で表すとき,言葉がけっこう錯綜します.

グラフとは…
関数y=f(x)に対して定義されるもので,点集合{(p,q)|q=f(p)}のこと

図形の方程式とは…
図形を点集合{(p,q)|p,qに関する条件…(*)}と表すとき,(*)を座標軸の文字x,yを用いた式に直したもの

2次関数y=x^2のグラフを,「放物線y=x^2」とも言い,y=x^2をこの放物線の方程式とも言う.
もはやイミフメイ(笑)
y=x^2という式には,少なくとも3つの側面があるようです.

ちなみに,円の方程式:x^2+y^2=1は,1つの式でy=f(x)の形には書けません.
だから,x^2+y^2=1は「曲線」と言うけれど,「グラフ」とは言えない!

さらに,y=x^2をy-x^2=0と変形すると,「y-x^2=0のグラフ」という言い方は,かなりビミョーな表現だと思います.


図形を表すのに,ある変数の値が変化することで,動的にとらえることがあります.
その変数が「媒介変数」です.

例えば,放物線y=x^2は

  {(p,q)|q=p^2}

ですが,これを

  {(t,t^2)|tは実数}

と表すこともあります.
式で書くときは,

  x=t,y=t^2 (tは実数)

という風に,x座標,y座標のそれぞれをtの式で表すことになります.

  x=t,y=xt (tは実数)

という“間接的”な表現になることもあります.
これらは,放物線の「媒介変数表示」と言っても,「方程式」とは言いません!

さて,ここで,直線について.

  直線y=2(x-1)+3

は,点A(1,3)を通り,傾きが2の直線です.
y=2(x-1)+3は,「1次関数」を表しており,「直線の方程式」と捉えることもできます.

この直線の方程式として

  2x-y+1=0 ……①

を考えることもできます.x,yの係数を順に並べたベクトル(2,-1)には,図形的に重要な意味があります.

  直線①と垂直である

という意味です.
垂直である理由は?

傾きが2の直線はベクトル(1,2)と平行です.これは方向ベクトルと呼ばれます.
👉ベクトルdと表すことにします.

ベクトルdとベクトル(2,-1)との内積を計算すると

  (1,2)・(2,-1)=2-2=0

で,(2,-1)は直線と垂直なベクトル(法線ベクトル)です.
👉ベクトルnと表すことにします.

①は,

  2(x-1)-1(y-3)=0

と書けるから,ベクトルを用いて

  (2,-1)・(x-1,y-3)=0
 ∴ (ベクトルn)・(ベクトルAP)=0 ……②

となります.
ここで,点Aは上で置いた(1,3)です.点Pは動点(x,y)です.

②はベクトルを用いた式で直線を表しているから,直線の「ベクトル方程式」と言います.

一方,ベクトルを用いた別の表現として,

  (ベクトルAP)//(ベクトルd)
 ∴ (ベクトルAP)=t(ベクトルd) (tは実数) ……③

と表すことができます(細かいことを言うと,「または,P=A」が抜けています・・・).

高校数学のベクトルにおいては,③も直線の「ベクトル方程式」と呼びます.
これに違和感を抱く人も多いようです.
なぜなら,③を書き換えていくと

 (ベクトルAP)=t(ベクトルd) (tは実数) ☚直線のベクトル方程式
 (x-1,y-3)=t(1,2) ☚直線のベクトル方程式(成分バージョン)
 (x,y)=(1+t,3+2t) ☚直線のベクトル方程式(成分バージョン)

 x=1+t,y=3+2t 👉直線の「媒介変数表示」

と,急に名前が変わってしまうからです!

だから,③を「ベクトルによる直線の媒介変数表示」と呼ぶのがベストだと,私は思うわけです.

 座標の文字x,yだけで表すのが「方程式」
 別の変数を用いて表すのが「媒介変数表示」

なんだから,

 ベクトルだけで表すのが「ベクトル方程式」
 別の変数を用いて表すのが「ベクトルによる媒介変数表示」

としたら良いのでは,ということ(別の動点を用いて表すのは,何と呼ぼうか・・・).


法線ベクトルを用いた直線の表示:

  (ベクトルn)・(ベクトルAP)=0 ……②

は間違いなくベクトル方程式です.
しかし,方向ベクトルを用いた直線の表示:

  (ベクトルAP)=t(ベクトルd) (tは実数) ……③

は,ベクトル方程式なんでしょうか??

まぁ,「ベクトル方程式ということにした」と定められたらそう決まるのが数学(いまは教科書準拠の高校数学)だから,グチグチ言っても仕方ない・・・

敢えて抵抗するならば・・・

  (ベクトルAP)//(ベクトルd)

  (ベクトルAP)と(ベクトルd)のなす角が0°または180°

と言い換えて,


  |(ベクトルAP)・(ベクトルd)|^2=|ベクトルAP|^2・|ベクトルd|^2

 ※ | | について,左辺は実数の絶対値,右辺はベクトルの大きさです.


と書くことはできて,これなら,有無を言わさず「ベクトル方程式」だ!という主張です.


長々と書いて,そんだけかい!と,僕ならツッコミます.
最後まで読んでいただき,ありがとうございました.