数学の教科書には様々なカンマが登場します.
同じように見えて,異なる意味で使われています.
もしかしたら,これが,数学を分かりにくくする原因の1つになっているのかも知れません.
数学の先生は,過去の経験をもとに当たり前のようにカンマを使い分けます.
授業中には,話の流れがあるから,あまり気にならないでしょうが,復習でノートを見るとき,教科書を見返すとき,・・・カンマの乱用で意味が分からなくなってしまう可能性があると思います.
このような経験の積み重ねが,生徒の「よく分かんないから,そういうものだと受け入れようかな」を生み出しているのではないでしょうか?
数学Iの教科書を調べてみました(一部,例外アリ).
どんなカンマ「,」があるのでしょう??
大きく分けて,「区切り」「連立(かつ)」「並記(または)」があり,細かく見ると以下の13種類がありました.
1.区切り
①数や式を列挙するときの区切り
②並び順に意味のあるものの項の区切りに
③集合の要素の区切りに
④並びに意味のある数の組の区切りに
2.連立(かつ)
⑤条件や定義の連立
⑥集合の定義における条件の連立
⑦等式の連立
⑧不等式の連立
⑨不等式と非等式(?)の連立
3.並記(または)
⑩複数ある答えの並記
⑪方程式の解の並記
⑫不等式の並記
⑬連立不等式の解法(2次関数)に見る並記
本記事では,これらの例を挙げて少し解説するだけですが,何かの参考になれば嬉しいです.
1.区切り
①数や式を列挙するときの区切り
「次の整式A,Bについて…」
「Pは1,3,5,7,9を要素とする集合である」
「{1,2}の部分集合は∅,{1},{2},{1,2}である」
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数学的な意味を持たず,「読点(、)」の代わりに用いる「,」とほぼ同じか?
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データの分析では,間に「,」をいれず,全角スペースで区切っていることが多い(例外あり).
②並び順に意味のあるものの項の区切りに
「自然数1,2,3,……」
「変量xについてのデータが,n個の値x_1,x_2,……,x_n」
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順に並ぶことに意味があるものについて,項の区切りを表すのに用いている.
①との違いが分かりにくい.
③集合の要素の区切りに
「集合P={1,3,5,7,9}」
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{ }で囲うと順番に意味はなくなるが,そのことは触れられていない.
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という表記もあるが,これは,①読点と同じ
④並びに意味のある数の組の区切りに
「点A(1,2)」
「2つの変量x,yのデータが(x_1,y_1),(x_2,y_2),……,(x_n,y_n)」
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( )で囲うと順番に意味が与えられるが,そのことは触れられていない(中1の教科書では,座標は「数の組合せ」として定義しているが,x,yとの対応を説明していて,並びに意味があるような雰囲気は出している).
2.連立(かつ)
⑤条件や定義の連立
「整式A=x^2,B=x+1とする.」
「集合A={1,2},B={3}とする.」
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複数のものを同時に定義したりするときに使うようだ.
①のように「読点(、)」の代わりとも思えるが,“かつ”の意味になっている.
⑥集合の定義における条件の連立
「A={x|-1<x<1,xは実数}」
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“かつ”になっている.A={x|式,式}という表記は無かった.
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条件の並記には「pまたはq」や「pかつq」と書かれている.
⑦等式の連立
「(2次関数の決定)-1+p=2,1+q=-3 ゆえに p=3,q=-4」
「(平行移動など)x=X+p,y=Y+q すなわち X=x-p,Y=y-q」
「(確率変数での積事象)P(X=a,Y=b)」
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条件としては“かつ”である.
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「3点を通る2次関数の特定」では,「,」ではなく「{ 」を用いている!
⑧不等式の連立
「(2次関数の応用・図形の存在から定義域)x>0,20-2x>0 であるから 0<x<10」
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何も説明なく,「,」で“かつ”を表している!
“または”にすると「実数全体」になっておかしいから,“かつ”のはずだ,と判断させるのか?
「{ 」で書くべきところを,「,」にしているのは行数の節約のためか?
⑨不等式と非等式(?)の連立
「(tanを考えるとき)0°≦θ≦180°,θ≠90°の範囲でθを動かすと」
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“または”と見たら実数全体になってしまうから,“かつ”なのか?
しかし,θ≠90°は「θ<90°または90°<θ」だから,分かりにくい.
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別の場所では,「0°<θ<90°または 90°<θ<180°」と書かれている!
3.並記(または)
⑩複数ある答えの並記
「求める直線はy=x,y=2x(数Ⅱ)」
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「直線」とあるから意味をなすが,何もないと連立方程式に見える.
区切りと考えることもできるか?
⑪方程式の解の並記
「(x+1)(x-3)=0 すなわち x=-1またはx=3 ゆえに x=-1,3」
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左辺は1つ(未知数x),右辺は複数個(解)は,x=-1またはx=3つまり,x∈{1,2}を表しているようだ.
等式の連立「x=-1,x=3」では,「x=-1 かつ x=3」で,これを満たすxは存在しなくなる!?
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解の公式x=(-b±√(b^2-4ac)/2aは,x∈{(-b+√(b^2-4ac)/2a,(-b-√(b^2-4ac)/2a}で,
x=(-b+√(b^2-4ac)/2aまたはx=(-b-√(b^2-4ac)/2a
である.この2つのうち,いずれかを満たすものということ.
各a,b,cについて,どちらともが解であることが大事!
※これより前に「9の平方根は3と-3,すなわち±3である」との記述あり.
⑫不等式の並記
「不等式|x|>3の解はx<-3,3<x」
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条件としては“または”である.
【注】として「x<-3,3<xは,x<-3と3<xを合わせた範囲を表す」と書かれているが,“合わせた”は定義されていない.「集合と命題」よりも前に1次不等式,絶対値を扱うためである.
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その後は,何も確認せずに「x<-c,c<x」などと書いてあるから,不等式の並列では“または”を採用するのか?
※「|x|=cの解はx=±c」とある.その後に,「a≧0のとき|a|=a,a<0のとき|a|=-a」とある.
「|x|=xまたは|x|=-x」は,各xによってどちらかに決まってしまうから,|x|=±xとは書けないことも触れてもらえたら良いのにな,と思う.
⑬連立不等式の解法(2次関数)に見る並記
「 x^2+x-2<0
{ で,1つ目から-2<x<1…①,2つ目からx≦-1,0≦x…②
x^2+x≧0
①と②の共通部分を考えて-2<x≦-1,0≦x<1」
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ここでは「,」で“または”を表している.問題文では,「{ 」で“かつ”.
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