yoshidanobuo’s diaryー高校数学の“思考・判断・表現力”を磨こう!ー

「大学への数学」執筆者・吉田信夫の数学探求ブログ(共通テスト系問題の研究報告)

「漸近線」の限界に漸近してみる

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漸近線とは?

 

Wikipediaには

 

解析幾何学において、平面曲線の漸近線(ぜんきんせん、asymptote)とは、十分遠くで曲線との距離が 0 に近づき、かつ曲線と接しない直線のことである。通常の定義では、漸近線は曲線と無限回交わってもよい

漸近線は存在するとは限らず、また複数存在する場合もある。漸近線を見出すことは、曲線の概形をつかむ一助となる。

特に、座標平面における関数に対しては、そのグラフの漸近線の方程式は(存在の可否も含めて)求め方が確立されている。関数のグラフの接線極限が存在するならばそれは漸近線に等しい

代数幾何学などでは、漸近線は無限遠点のみで曲線と接する直線と定義される 

漸近線として直線だけでなく曲線を考えることもある。

 

と書かれています(定義①と呼びます).

接するとか,接さないとか,定義に含まれているんでしょうか?

 

写真の下の方にある2つの曲線は,関数

 

青:y=sin(5x)/e^(x/3)

赤:y=(1+sin(5x))/e^(x/3)

 

のグラフで,x軸に漸近しています(と言って良いのか・・・???).

 

2つの違いは分かりますか?

 

青い方は,x軸の上下を細かく振動しながら,x軸に漸近しています.

この挙動を減衰振動なんて言いますね.

定義①でも,無限回交わっても良いそうなので,漸近線で良いのでしょう.

 

赤い方は,1+sin(5x)とすることでsin(5x)=-1となるxにおいてx軸に接しています.

定義①では,接してしまっているから,漸近線として認められないのかも・・・

 

(注)定義①では,「かつ曲線と接しない」の部分にも「十分遠くで」がかかっていると読むのが良いと思います.

 

y=xはy=xの任意の点における接線であるから,定義①では,y=xはy=xの漸近線にならないでしょう.

 

では,高校数学の教科書ではどうなっているでしょう?

 

中1の反比例の段階では,漸近線という言葉は登場しません!

初出はどこだと思いますか?

 数Ⅲの微分

 数Ⅲの無理関数?

 数Ⅲの双曲線?

 数Ⅱの指数関数,対数関数のグラフ?

その1つ前にあるのが

 数Ⅱの三角関数,y=tanxのグラフ

です.ここが初出のようです.

 

定義②

グラフが一定の直線に限りなく近づくとき,その直線を,そのグラフの漸近線という.

 

これに従うと・・・

 

赤も青もx軸に漸近するし,y=xはy=xの漸近線になりそうです.

 

実際,数Ⅲの教科書には,次のようにも書かれています.

 

関数f(x)において

 lim(x→∞) f(x)=a または lim(x→-∞) f(x)=a

が成り立つとき,直線y=aは曲線y=f(x)の漸近線である.また,

 lim(x→b+0) f(x)=∞,lim(x→b+0) f(x)=-∞

 lim(x→b-0) f(x)=∞,lim(x→b-0) f(x)=-∞

 のいずれかが成り立つとき,直線y=bは曲線y=f(x)の漸近線である.

 

関数f(x)において

 lim(x→∞) {f(x)-(ax+b)}=0

 または lim(x→-∞) {f(x)-(ax+b)}=0

が成り立つとき,直線y=ax+bは曲線y=f(x)の漸近線である.

 

極限を考えるだけで,「漸近線だ」と主張できるということです.

f(x)=xのとき,

 lim(x→∞) {f(x)-x}=0,lim(x→-∞) {f(x)-x}=0

ですから,y=xはy=xの漸近線です!

 

(注)直線は,真っ直ぐな曲線です.「曲線ではないから,漸近線の定義に当てはまらない!」とはならないのです.

 

一方,Wikipediaにも似た記述がありますが,

 

曲線y=f(x)が直線y=ax+bに漸近するとき,

 lim(x→∞) {f(x)-(ax+b)}=0

 または lim(x→-∞) {f(x)-(ax+b)}=0

が成り立つ.

 

という書き方になっています.

 

違いは分かりますか?

Wikipediaの方は,「極限の性質が成り立つからと言って漸近線とは限らないよ」という含むがありますね.

接するとかいうところにこだわっている感があります.

 

高校数学の範囲で考えると,「y=xはy=xの漸近線である」となりますが,これを敢えて主張することに意味がないから,考えることはほぼないでしょう.

万が一,「y=xはy=xの漸近線であるか?」と問われたら,「Yes!」と答えましょう.