【入試問題紹介】
出題者の意図は,いったい・・・
2021年の某大学の入試問題です.
問題文が分かりにくかった,と受験した生徒(合格!)に言われました.
集合を使って書いたり,論理構造を問うようにすると,混乱してしまう人がかなり多くなると思います.
この問題で問いたいのは,読解力?
👉それなら,(2)はいらない!
(1)はどういう方針を想定している?
👉
①「T∩(β,∞)に最小元があるから,それを用いてγを構成できる」を認めて良いか?
➤それなら,(2)は「(1)と同様」でOKに・・・.
②上記①での最小元の存在をキッチリ証明させたいのか?
➤それはかなり難しい・・・
③背理法(存在しないなら,矛盾)とやらせたいのか?
➤(2)はSからTを構成するのか?
①,②,③のどれなんでしょう?
※長いです!スミマセン.
さて,その前に,まずは読解力について.
受験生の言うと通り,確かに,大人の数学の本に書かれているような文です.
~が存在して,…を満たす
これは,
There exists ~ such that …
を直訳したような文で,ふつうの日本語じゃないです.
…を満たす~が存在する
と同じ意味です.
~に入るのは適当な名詞で,…は~に関する条件です.
これだけならまだしも,本問の構造はかなり複雑です.
x>βならばx-β≧γ
は,x,β,γに関する条件ですが,「βを実数とする」はβを文字定数として扱う,という意味なので,これは,x,γに関する条件です.
ちなみに,文字定数は,答えに入っても良い文字で,その文字の値によって答えが変わるときには場合分けして答えます.
さて,条件とはなんでしたか?
「x,γに数値を代入すると,命題(=真偽が決まるもの)になるもの」が条件です.
これに,「x∈Tについて」がくっ付いていますが,これは「すべてのxについて」という意味です.
x∈Tについてx>βならばx-β≧γ
は,「xに何を代入しても真か?」ということだから,xについての条件ではなくなります.
命題になってしまいました!
しかし,まだγについては条件のままです.
ということで,条件(F)はγに関する条件です.
条件(F)を満たすγが存在することを示す問題です.
これを正しく読解するのは,なかなか難しいですね.
x∈Tについてx>βならばx-β≧γ
が真になるというのは,集合でいうと
{x∈T|x>β}⊂{x∈T|x-β≧γ}
が成り立つということです.
もしも,全体集合がTでなかったら?
仮に全体集合が実数全体の集合だったら,
(β,∞)⊂[β+γ,∞)
ということで,これが成り立つγの条件は
γ≦0
です.正のγでは,このようなものはありません!
ということで,集合Tを真剣に向かい合う必要があります.
意味が分からないなら,具体例!
最初に与えるのは,m_1,…,m_kです.
k=2としてm_1=0.3,m_2=0.5でどうでしょう?
a_1,a_2が色んな0以上の整数であるときに,Σで書かれたものがどういう値になるかを調べます.
(a_1,a_2)=(0,0),(1,0),(0,1),(2,0),(1,1),(3,0),(0,2),……
の順に
T={0,0.3,0.5,0.6,0.8,0.9,1.0,……}
です.
飛び飛びの値しかとりません!
例えば,β=0.7として
{x∈T|x>β}⊂{x∈T|x-β≧γ}
となるγを探します.
{x∈T|x>0.7}={0.8,0.9,1.0,……}
だから,例えば,γ=0.1とすると
{x∈T|x-β≧γ}={x∈T|x≧0.8}={0.8,0.9,1.0,……}
です.γが存在しました!
{x∈T|x>β}
という飛び飛びの値しか含まない集合の最小元をβ+γとおけば良いのです!
(2)も飛び飛びの集合だから,同様です!
①読解が十分に難しいので,「最小元の存在」は認めてしまって良いような気がします.
けれど,それなら(2)は要らないような・・・
②では,最小元の存在をしましますか?
それでも(2)が自明であることは変わらないです.
まぁ,示しておきましょうか.
<証明>
{x∈T|x>β}=S’と表すことにする.
S’に最小元が存在しないと仮定する.
x∈S’を任意に1つとり,x_1と表すことにする.
すると,これは最小元ではないから,
x_2∈S’かつ x_2<x_1
となるx_2が存在する.もちろん,x_2はSの要素である.
これを繰り返すと.S’の要素の無限列{x_n}で
x_1>x_2>x_3>……>β
となるものがある.この無限個の数は,すべてのSの要素である.
Sの定義から,x<x_1を満たすx∈Sは有限個しかないので,これは不合理である.
◆ ◆ ◆
こんなのは高校生には厳しい気がしますね・・・
やはり,③でしょうか?
背理法.
命題
(F)を満たす正の実数γが存在する
を否定してみましょう.それは
すべての正の実数γについて,(F)が成り立たない
です.
次に考えるのは「(F)が成り立たない」の意味です.
x∈Tについてx>βならばx-β≧γ
の否定は,
x>βかつx-β<γとなるx∈Tが存在
つまり,
β<x<β+γとなるx∈Tが存在
です.集合での
{x∈T|x>β}⊂{x∈T|x-β≧γ}
の否定として考えると,
{x∈T|x>β}∩{x∈T|x-β<γ}≠∅
で,
β<x<β+γとなるx∈Tが存在
と同じになっていますね.
ということで,背理法示すときの仮定は,
すべての正の実数γについて,「β<x<β+γとなるx∈Tが存在」
です(βは固定された定数です!).
Tは飛び飛びの値のみを含む集合だから,γが十分0に近いと,「β<x<β+γとなるx∈Tが存在」は成り立たちません.
だから,矛盾です.
☞Tが飛び飛びの集合である,をどこまで使ってよいのか,判断が難しい・・・
出題者の想定解法として考えられるのは,(2)で(1)を利用するものでしょう.
(最小元の存在は使わずに)
(2)
n_i=m_i/r(>0)←定数!
b_i=a_i+m(≧0)←集合を定めるための変数
とすると,
S={Σb_i*n_i-m/r*Σn_i|n_1,……,n_kは整数で,0以上}
となっています.
T={Σb_i*n_i|n_1,……,n_kは整数で,0以上}
とおくと,(1)の性質を満たしていて,x∈Sのとき,y∈Tで,
x=y-m/r*Σn_i
と表せて,x>0は
y>m/r*Σn_i
です.だから,(1)で
β=m/r*Σn_i
とすれば,(2)も示せたことになります.
あぁ,メンドクサイ.
出題意図はどれなんだろう??
ここまで書いても,結局,よく分かりません.
後味悪くてスミマセン.
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