yoshidanobuo’s diaryー高校数学の“思考・判断・表現力”を磨こう!ー

「大学への数学」執筆者・吉田信夫の数学探求ブログ(共通テスト系問題の研究報告)

1次元ベクトルを考えると,正射影ベクトルが分かりやすいと思う件

内積は正射影だ」なんて言われることがあります.

正射影ベクトルの公式:

  (ベクトルAC')={(AB,AC)/|ベクトルAB|^2}×(ベクトルAB)

を丸暗記させること,ありませんか? 

私がどういう解釈をしているか,まとめてみようと思います.

 

 

平面内に,同一直線上にない3点A,B,Cがあるとする.

「点Cから直線ABに引いた垂線の足」をC'とおく.

すると,

  AB⊥CC' ∴ ベクトルABとCC'の内積が0 ‥‥‥①

以後,内積を使った式は,例えば①なら,

  (AB,CC')=0  ‥‥‥①

のように書くことにする.

 

  (AB,CC')=(AB,AC'-AC)=(AB,AC')-(AB,AC)

であるから,① より

  (AB,AC')=(AB,AC)  ‥‥‥②

が成り立つ!

この式は重要な式である.

 

ベクトルAC'が,「ベクトルACの,ベクトルAB方向への正射影ベクトル」である.

「正射影ベクトルとの内積は,元のベクトルとの内積と等しい」というのが②の意味である.

 

C'は直線AB上にあるから,ベクトルAC'は「ベクトルABの実数倍」で,

  内積が正のときは,ベクトルABと同じ向き

  内積が0のときは,零ベクトル

  内積が負のときは,ベクトルABと逆向き

である.

  (ベクトルAC')=k×(ベクトルAB) (kは実数)

と置けて,②より

  k×|ベクトルAB|^2=(AB,AC) ☜両辺とも数値です(ベクトルではない!)

  ∴ k=(AB,AC)/|ベクトルAB|^2

である.よって,

  (ベクトルAC')={(AB,AC)/|ベクトルAB|^2}×(ベクトルAB)

である.

 

ここで,

  {1/|ベクトルAB|}×(ベクトルAB)=ベクトルe

とおくと,ベクトルeは,「ベクトルABと同じ向き」の単位ベクトルである.

 

直線ABを数直線と見る.

その際,Aが原点で,Bが正の方向にあるようにとる.

すると,この数直線の正の向きを表す単位ベクトルがeである.

  (ベクトルAC')={(AB,AC)/|ベクトルAB|}×(ベクトルe)

となっているから, 

  (AB,AC)/|ベクトルAB|

が数直線上でのC'の座標である.

「ベクトルAC'の成分」と思っても良い.

 

2ベクトルAB,ACのなす角をθ(0≦θ≦π)とすると,

  |AC|cos θ

がC'の座標である.

  θが鋭角のとき,座標が正

  θが直角のとき,座標が0

  θが鈍角のとき,座標が負

である.

 

数直線を考えて,その中だけで「1次元ベクトル」を考えていることになっているのに気づいただろうか?

正射影ベクトルの公式

  (ベクトルAC')={(AB,AC)/|ベクトルAB|^2}×(ベクトルAB)

を覚える必要はないが,「正射影ベクトルは,垂線の足を下した直線の中だけで1次元ベクトルを考えていることになる」という観点は重要である.

内積

  (AB,AC)=|AB||AC|cos θ=|AB|×|AC|cos θ

 と分けて考えると,後半(|AC|cos θ)が,ベクトルAB方向(前半のベクトル)への正射影ベクトルの「座標」を表している.

「長さ」ではない!

負になることもあるからだ.

 

だから,垂線の足が線分AB内に,あっても,なくても,  

  (ベクトルAC')={(AB,AC)/|ベクトルAB|^2}×(ベクトルAB)

と1つの式で書けるのである.

 

鈍角のときに,うっかりマイナスを付けてしまったり,しませんか?

丸暗記しても,あまり意味はない‥‥‥

 

しかし,読みにくいですね.スミマセン.