高校数学のベクトルでは,
「平面上のベクトル」と「空間上のベクトル」
は考えるが,
「直線上のベクトル」つまり「1次元のベクトル」
は考えないようだ.
1次元のベクトルとは?
直線上に2点A,Bをとって,有向線分ABを考える.
2,3次元と同じく,有向線分は,「位置」と「向き」と「大きさ」で決まる.
「有向線分」と「ベクトル」を混同している人も多いが,別物である.
「ベクトル」は,(「位置」を問題にせず)「向き」と「大きさ」で決まる量である.
少しややこしくなるが,ベクトルを,集合を利用して考えてみよう.
何次元でも構わない.
有向線分全体の集合において,有向線分ABと「向き」「大きさ」が同じであるものを1つにまとめると,同じ向きと大きさの有向線分を集めた部分集合ができる.
この部分集合が「ベクトルAB」と考えると良い.
部分集合の要素の1つ(これを“代表”と呼ぶことにする)として「有向線分AB」が取れるから,この部分集合を「ベクトルAB」と表すのである.
ベクトルABという部分集合には無数の有向線分が含まれるが,ベクトルABの代表となる有向線分として,いまは有向線分ABを取っているのである.
もちろん,別の有向線分,例えば有向線分OC(が含まれているなら,これ)を取ることもできる.
有向線分として有向線分ABと有向線分OCは(「位置」が違うなら)別のものである.しかし,同じ部分集合の代表になるから,ベクトルとしてベクトルABとベクトルOCは同じである.
ある学級を「A君の居るクラス」ということも「Bさんの居るクラス」ということもあると思うが,これと同じである.
この辺りをふわっとしか理解していないことは,ベクトルを学んでいないことと同じかも知れない.
ベクトルを使って問題を解くことができても,概念としてのベクトルはまったく分かっていない.
そういう人はけっこう多いのではないかと思う.
話がそれた.
直線上に2点A,Bをとって,有向線分ABを考える.
有向線分の集合を,
“「向き」と「大きさ」が同じである有向線分を集めた部分集合”
に分割する.
各部分集合がベクトルである.
各部分集合について,代表となる有向線分を何にしても良い.
始点が原点Oである有向線分を代表にすると,ベクトルは終点の座標で決まる.
1次元の場合は,どのベクトルも,1つのベクトル(単位ベクトルを取ると便利)の実数倍で表される.
その実数が,「始点がOのときの終点の座標」である.
もちろん,負になることもある.
この感覚を身に付けていると,「内積」との関連がある「正射影ベクトル」のイメージが付きやすくなるはずである.
正射影ベクトルについては,また別の機会で.
今書いている数Bの本には,これらを載せる予定である.