yoshidanobuo’s diaryー高校数学の“思考・判断・表現力”を磨こう!ー

「大学への数学」執筆者・吉田信夫の数学探求ブログ(共通テスト系問題の研究報告)

同値記号を使って証明を書く

以前は同値記号⇔をよく使っていました.
学生の頃は一切使っておらずでしたが,この仕事について初めて使うようになりました.

何も考えずに使っている時期もありましたが,よくなかったなぁ,と反省しています.
当時は,条件と命題の違いも言語化できていなかったのではないか,と思うほどです.

今回は,生徒の答案を見て思ったことをもとに,ちょっと整理しておこうかなと思って書いています.

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証明するのは「命題」.
「命題」は,真偽が確定するような数学的な文章(意味をなしていないものはダメ).


 xは実数とする.x≧3において,x^2-2x-1>0が成り立つことを示せ.


という問題を出されたら,示すのは何でしょう?

「x^2-2x-1>0」ではないですよ!

だって,これは,「条件」ですから.
「条件」は,変数を含んでいて,「全体集合」に含まれるものを変数に代入したら「命題」になるもの.
全体集合があって初めて条件なんですね.

全体集合をU={x | x≧3}として,xに関する「x^2-2x-1>0」という“条件”を考えていることになります.

証明する(“真”であると論証する)のは,

  「x∈Uを満たすすべてのxでx^2-2x-1>0が成り立つ」

という“命題”です.


「x∈Uを満たすすべてのxで」が付いていると,xに何か代入するもの(条件)ではなく,真偽が確定するもの(命題)になるのです.
「あらゆるxを代入して,必ず真になるか?」という問いが真か偽か,答えるからです.

また,同値記号⇔は,「必要十分条件」という言葉からも分かるように,“条件”と“条件”をつなぐものです.そのさい,全体集合Uは固定されていることに注意です!


(証明例)
U={x | x≧3}とする.x∈Uについて
    x^2-2x-1>0 ⇔ (x-1)^2-2>0
  ⇔ x>1+√2 ⇔ x≧3
であるから,“命題”「x≧3において,x^2-2x-1>0が成り立つ」は真である.


だから,x∈Uについて,

・x-1>0だから, (x-1)^2-2>0 ⇔ x>1+√2

・1+√2≦3だから, x>1+√2 ⇔ x≧3

となるのです.


極端な例では,次のような同値変形も可能です.

0≦x≦πにおいて,

 0≦sin x≦1 ⇔ -1≦sin x≦1 ⇔ -20≦sin x≦100


また,

   x∈Uを満たすすべてのxで x^2-2x-1>0 が成り立つ

 ⇔ x∈Uを満たすすべてのxで (x-1)^2-2>0 が成り立つ

 ⇔ x∈Uを満たすすべてのxで x>1+√2 が成り立つ

 ⇔ x∈Uを満たすすべてのxで x≧3 が成り立つ

と書いてはダメですよ!
丁寧に書いたつもりでも,“命題”と“命題”を同値記号⇔でつないじゃってますから!

もちろん,

 「見えない文字があって,その文字に関する条件なんだ!」

と主張することは可能ですが,それなら,その文字と,文字に代入できるものを表す全体集合を明示しましょうね!


この観点だけで書かれた稀有な本(賛否両論ですけど)
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