yoshidanobuo’s diaryー高校数学の“思考・判断・表現力”を磨こう!ー

「大学への数学」執筆者・吉田信夫の数学探求ブログ(共通テスト系問題の研究報告)

収束する数列の和は,極限値の和に収束する

数学を教える仕事を長くやってきたので,ちょっとは分かりやすく説明できるようになっているかな?という検証です(笑)

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内容としては,これまでにもブログで2回紹介した,高校数学とは違う,大人の定義の活用についてです.
「収束」を雑に扱ってはならないということを真に理解するには,収束の「本当の意味」を知る必要があると思います.
高校生には少しハードなのですけど,教える側としては知っておきたい内容だろうと思います.

(注)大学1年生で学ぶ内容なので,「何を当たり前のことを・・・」と思われるかも.スミマセン.

 

まず,復習から.


「数列{a_n}が実数αに収束する」とは,

*******

どんな小さな正数εを固定しても,十分大きいnについて,“常に”
|a_n-α|<εが成り立つ

*******

ということ.
“十分”の部分を言語化しておくと

*******

どんな小さな正数εを固定しても,ある大きな自然数Nが存在して,
n>Nとなる“すべてのn”について,|a_n-α|<εが成り立つ

*******

ということになります.

この定義を使わないと,次の重要な性質も証明できません.
高校数学では,暗黙のうちに認めているものです.

*******

数列{a_n}がαに収束し,数列{b_n}がβに収束するとき,
数列{a_n+b_n}がα+βに収束する.

*******

これを,

*******

α,βを実数とする.lim a_n=α,lim b_n=βのときlim (a_n+b_n)=α+β

*******

と書いても正しいですが,「収束」という条件を使って,「収束」を導くという意味が見えにくくなるような気がします.

言葉だけで書くと,

*******

 収束する数列の和で表される数列は収束し,“和の極限値”は,“極限値の和”になる

*******

となります.
これを証明してみましょう.


<証明>
小さな正の数εを固定する.

十分大きいnで“常に”

 |(a_n+b_n)-(α+β)|<ε

となることを示す.

まず,絶対値の性質から

 |(a_n+b_n)-(α+β)|≦|a_n-α|+|b_n-β|

が成り立つ.

次に,数列{a_n}がαに収束し,数列{b_n}がβに収束することの意味を思い出そう.
定義により,小さな正数としてε/ 2 をとっても,十分大きいnで“常に”

 |a_n-α|<ε/ 2 ,|b_n-β|<ε/ 2 ☜敢えてε/ 2 にしています!

となる.

よって,十分大きいnで“常に”

  |(a_n+b_n)-(α+β)|

 ≦|a_n-α|+|b_n-β|

 <ε/ 2+ε/ 2=ε ☜ここで和がεになるようにしたのでした!

が成り立つ. (証明おわり)


【補足①】
途中で「ε/ 2 」をとったのは,最後を「ε」にするためでした.

【補足②】
“十分大きい”をキッチリやってみましょう.
数列{a_n}がαに収束し,数列{b_n}がβに収束するから,

 n>Lのとき,|a_n-α|<ε/ 2

 n>Mのとき,|b_n-β|<ε/ 2

となるような,大きな自然数L,Mが存在します.
L,Nの大きい方をNと表すことにすると,

 n>Nのとき,|a_n-α|<ε/ 2 かつ |b_n-β|<ε/ 2

が成り立ちます.
だから,

 n>Nのとき,常に|(a_n+b_n)-(α+β)|<ε

が成り立ちます.


厳密にやるのって,難しいですね・・・
でも,こうしないと,極限の色々な性質は証明できません.
高校数学では「認めよ!」という扱いです.

分かりやすく書けたつもりですけど,いかがでしょうか??

続編では,もう少し高度な話をやってみようと思います.
少しでも「大人の定義」に親しんでもらえたら嬉しいです.

 

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