yoshidanobuo’s diaryー高校数学の“思考・判断・表現力”を磨こう!ー

「大学への数学」執筆者・吉田信夫の数学探求ブログ(共通テスト系問題の研究報告)

ベクトルって係数比較できるんでしたよね?

ベクトルって,図形的センスがなくても計算で図形問題が解けるようになる,魔法の道具です.

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※今回は,略記として,「ベクトルAB」を(AB)と表すことにします.


例えば三角形PQRの垂心H.
外心Oを始点にすると,

 (OH)=(OP)+(OQ)+(OR) ‥‥(*)

と表せるのでした.実際,

  |(OP)|=|(OQ)|=|(OR)|

なので,(*)を満たすHは

  (PH)・(QR)={(OH)-(OP)}・(QR)
  ={(OQ)+(OR)}・{(OR)-(OQ)}
  =|(OR)|^2 - |(OQ)|^2
  =0

を満たします.他も同じように考えて

  PH⊥QR,QH⊥RP,RH⊥PQ

が分かるからです.
すごくシンプルな表示ですね!

Gを重心とすると

  (OH)=3(OG)

となっているから,外心,重心,垂心がこの順に一直線に並ぶことが分かるのです.
しかも,

  OG:GH=1:2

図形問題として考えると,補助線をたくさん引かねばならない難問ですが,ベクトルだとすごくスッキリ!

 (OH)=(OP)+(OQ)+(OR) ‥‥(*)

が,外心Oを始点にして考えたときの垂心Hの表記方法になります.
どんな三角形でも,必ずこの法則を満たしています!


一方・・・

重心座標という考え方(詳細の説明は省略)を使ってみましょう.

三角形PQRの内部にある点Hは,面積比

  △HQR:△HRP:△HPQ=p:q:r

とすると,

  p(HP)+q(HQ)+r(HR)=(0)

が成り立つことが知られています.

今回の図では,面積比を

  △HQR:△HRP:△HPQ=3:2:1

と求めることができ(点と直線の距離など)て,

  3(HP)+2(HQ)+(HR)=(0)

が成り立つことが分かるのです.

始点がOになるように変形すると・・・

  3(OP-OH)+2(OQ-OH)+(OR-OH)=(0)

 ∴ (OH)={3(OP)+2(OQ)+(OR)}/ 6 ‥‥(#)

です.
ちょっと複雑な形になってしまいました.


ちょっと待ってくださいよ.

上でも同じ(OH)を考えたけど,そこでの

 (OH)=(OP)+(OQ)+(OR) ‥‥(*)

とは似ても似つかない形になりました.


これはどういうこと??


でも・・・

  P(5,0),Q(0,5),R(-3,-4)

を当てはめると,両方とも

 (OH)=(2,1)

になるのです!


何でこんなことが起こってしまうのでしょう??

 

平面は2次元.
2次元とは?
2つのベクトルで全部を表せる,という意味.

2つのベクトル(1次独立な)を用いて表す方法はただ1通りで,係数比較することが可能なのです.

  あるベクトルを表す方法は,ただ1通り

でも,2次元を3つのベクトル(OP),(OQ),(OR)で表すのは・・・
本来は,

  (OP),(OQ)を使って(OR)が表せる

のに,(OR)も使って表しているから,

  平面で,あるベクトルを,3つのベクトルを使って表す方法は,
  無数にある

となるのですね.


上で見たように,2つの理論(外心・垂心の性質&重心座標)を使って表した形が食い違って見えるけれど,無数にある中の2つであるというだけで,計算してみると同じベクトルを表していることが分かります.


何でもかんでも「ベクトルと言えば係数比較」なんて思っていると,ダメなんですね!